ソノオの花畑 サトシ達一行はソノオタウンの間近にある、花畑を一望できる丘に立ち寄っていた。 穏やかな日差しが注ぐ昼下がり、毎度おなじみ、タケシ特製のランチでおなかが満たされたところで、 ヒカリが今度は心を満たそうとばかりに、花畑へ入りたいと言い出した。 「ねえサトシ、あのお花畑きれいよね! 一緒に近くでお花を見ない?」 「そうだな、賛成! じゃあポケモンたちもお花畑で遊ばしてやろうぜ!」 「うん!」 サトシとヒカリは、そばで思い思いにくつろいでいた自分のポケモン達をそれぞれ呼んでお花畑へ誘った。 パチリス、ミミロル、エイパムなどを筆頭に、みんな行きたがっているようだ。 「よ〜し、みんな行こうか! ・・・ってことだからさ、タケシ、留守番よろしくたのむぜ!」 「分かった、じゃあ俺のポケモンたちも連れて行ってくれ。」 そしてサトシ、ヒカリ、そしてポケモンたちはお花畑に入ったのだが、 ポケモン達はサトシやヒカリから少しだけ離れたところで、さっきと同様、思い思いに遊んでいる。 ちょうど脚のひざくらいだろうか、高すぎず低すぎずちょうどいい背丈の植物が、それぞれ思い思いの色の花を咲かせている。 そんな花々の様子に見ほれたヒカリが、感嘆の声を上げる。 「うわ〜きれいね〜!! やっぱり丘の上から見るよりも間近で見たほうがいいわね」 「そうだな〜、なんかこの花たちから元気が伝わってくるような気がするよ。」 「そうね! 私もこのお花畑みたいにきれいな演技をしたいなあ。」 「ヒカリなら大丈夫だよ。前回だってうまくいったし、あれから更に練習を積んだじゃないか。 今度のソノオ大会だって、自信さえしっかり持てばきっとうまくいくさ。」 「ありがとう、サトシ。何でだか分からないけど、すっごくいい演技ができるような気がしてきた。」 「そういえばさ・・・、俺もこの前のジム戦のときなんか、ずいぶんヒカリに助けられちゃったから、 今度は俺がヒカリの力にならなくちゃと思ったんだ。」 「でもさ、サトシ。その前のコンテストでは私がサトシから力をもらったんだよ?」 「そうなのか?」 「うん。・・・ほら、私ってあのコトブキ大会がはじめてのコンテストだったじゃない。 だから、サトシが練習に付き合ってくれたり、一緒に出場してくれたりしてくれて、正直、すごく安心できたの。 ・・・サトシにはどう見えたか分からないけど、私、あの時かなり緊張してた。 はじめてだから、もちろん嬉しい気持ちとか、やる気とかもいっぱいあったけど、やっぱり不安で・・・。 だいじょうぶとか言いながら、実は全然だいじょぶじゃなかった・・・」 そう言いつつヒカリは手元で何か作っているようだ。サトシは聞きながら、そのヒカリの手に視線を落としている。 手の動きが止まると同時に、ヒカリはこう続けた。 「・・・そんな私を助けてくれたサトシに、はい。これあげる! 私からの感謝のしるしよ。」 そう言ってヒカリはちょっといびつに編まれた花飾り・・・、王冠の 形にしたそれをサトシに手渡した。茎がところどころ折れかかっていたり、 うまく編みこまれていない箇所があったりして形こそしっかりしていないが、それでもきれいな花々がかわいらしくついて、 ほんのりと甘い香りを二人に届けている。 「これは、花飾り、だよな?」 「『だよな?』って何よ!? 確かに私こういうの下手だからうまく作れないけど。 ・・・でも私の気持ち、受け取ってくれるよね?」 「ああ、もちろんだよ。」 「じゃあ早く頭に乗せてみて!」 花飾りを手に持ったままちょっととまどったようすのサトシだったが、 ヒカリにそう促されて、ゆっくりとそれを頭にのせた。 「うん! なかなか似合ってるよ、サトシ。」 「そう!? じゃあ後でピカチュウやタケシたちにも被って見せてあげようか!」 そう言ってちょっと自慢げになるサトシ。 「う〜ん・・・、私としては、その花飾り、今限定ってことにしたいの。 あくまでサトシへの感謝を込めたプレゼントだから。」 「えっ? ・・・そうか〜。 うん、分かった。じゃあこれは俺たちだけのイベントってことにしとこう。」 「うん、それがいいと思う。・・・何でだかは分からないけど。」 「まああんまり深く考えてもしょうがないよ。 だから後はもうちょっとここでゆっくりしていこうか?」 そういいつつサトシはお花畑の中に腰を下ろした。ヒカリはそれに続いてサトシの隣に座り込む。 すると花々はいっそう近くに見え、まるで花一輪ずつが二人を見守っているようだった。 「そうね。 ・・・今度のコンテストでも応援よろしくね。そのあとはサトシのジム戦、一生懸命応援するから。」 「おう、任せとけって・・・」 ・・・そのまま二人はゆっくりと眠りに入っていった。 ピカチュウとミミロルが、すっかりお昼寝をしてしまっている二人を見かねて起こしに来たときには、 太陽は西へ傾きかけて、お花畑を少しばかり赤く染めはじめていた。