怪我の巧妙
- スレ1-156
 
- 怪我の巧妙
 - 07/09/12 21:03:54
 
 性懲りもなくまた季節外れなネタ投下。まとめサイト見ると自分のSSの癖がよく分かるなぁ 
 七夕に続く夏の風物詩です   
 怖いもの見たさ、という心は誰にでもあるもので、それは彼女も例外ではなかった。 
 「ヒカリ、本当に大丈夫か・・・?」 
 「だ、大丈夫・・・。」 
 そういいながら、サトシの服の腕の裾をしっかりと掴んで、 
 必死に後をぴったりとついているヒカリの声は心なしか震えていた。 
 季節は夏の盛りで、北に位置するシンオウとはいえ暑い。 
 サトシ達は道中のポケモンセンターにいつもどおり泊まっているが、そこでは夏の期間、定期的に肝試しを行っていた。 
 しかしそれを知らなかったヒカリは、ポケモンを預けてすることもないため、 
 据え置いてあったテレビで夕食前のひと時にサトシとホラー映画を見ていた。 
 そして夕食後になってサトシとヒカリは勢いでイベントに参加したのだ。 
 タケシも参加するかと思っていたサトシとヒカリだったが、 
 二人一組のチーム制のイベントだったため、二人で行ってくるといいよ。とやんわりと断られてしまった。  
 
- スレ1-159
 
- 怪我の巧妙
 - 07/09/12 21:38:05
 
 肝試しは部屋を締め切り、通路の電気を完全に落としたセンター内から始まり、  
 裏口を抜け、外の森にある祠の蝋燭を取ってくる簡単なものだった。  
 サトシは面白そうだと楽しげに笑っているが、ヒカリは気が気でなかった。  
 幽霊が特別苦手というわけでも、ゴーストタイプのポケモンが苦手というわけでもない。  
 ただ夕方見たホラー映画の内容をどうしても思い出してしまうのだ。  
 ホラーが苦手でないとはいっても、怖くないわけではない。  
 夕方にあんな映画を見なければよかったと後悔しても後の祭りで、ヒカリは始まる前から、こうしてサトシの服の袖を掴んでいる。  
 ヒカリも引き下がることができず、サトシに止めようかといわれても大丈夫と答えるしかなかった。  
 サトシの方も本人が大丈夫といっている以上無理にやめるわけにも行かず、少し困ったような顔をした。    
 そしていよいよ、サトシ達の出番となる。  
 ヒカリはやはり怖いのか躊躇していたが、サトシが進むと慌てて後を追った。  
 暗いセンター内は非常電源で医療器具を動かしているだけで、通路は暗い  
 通路は真っ黒態ってもいい状態で、足元の非常灯のみが頼りだ。  
 緑色の光はやけに暗闇に映えて、少し不気味だった。  
 鳥肌をたて、時々震えながらヒカリはサトシの後をぴったりと着いていく。  
 「お」  
 サトシが急にぴたりと立ち止まる。  
 「え?な、何どうしたのサトシ」  
 「向こうから何か来るぞ」  
 サトシが少し声を抑えていう。ヒカリはサトシの後ろに隠れて、目を凝らした。  
 サトシも同じように目を凝らす。  
 徐々に足音が近くなってくる。 
 からからからとキャスターを押しながら、近づいてくるのは人影のようだった 
 しかし様子がおかしい。  
 キャスターを押す影は少女だ。  
 真っ白なワンピースを着て、顔は良くわからない。  
 彼女はカラカラとキャスターを押す音を立てながら、素通りしていくだけで、これといって驚かしたりはしなかった。  
 (よかった・・・)  
 ヒカリは胸を撫で下ろした。  
 あくまでイベントなんだし、そこまで怖いわけはないか。  
 そう思ってサトシの背中からいったん引いた矢先。  
 「ヤーミーラー」  
 安堵したのもつかの間、暗闇で目を輝かせてこっちを見つめるやたらと大きなヤミラミに驚いて、ヒカリは最初の悲鳴をあげた。  
 
- スレ1-160
 
- 怪我の巧妙
 - 07/09/12 22:04:11
 
 裏口は案外簡単に行く事ができた。 
 まあ、そういう風にしてあるのだろうがヒカリはそんなこともいってられなかった。 
 「・・・ぅぅ・・・」 
 先ほどのヤミラミの急襲に加え、通ろうとすると急にばたばたと開く扉やら 
 勝手に浮遊して襲い掛かってくる注射などで完全に滅入ってしまってる。 
 サトシの服をしっかり掴んで離さない。 
 サトシは歩きづらそうにしているが、明らかに怖がっているヒカリに離れろというわけにも行かず、こうして歩いている。 
 森の祠はもうすぐの筈だ。 
 ムウマの泣き声が、不気味な夜の森を見事に演出している。 
 「これが祠だな」 
 祠の階段の手前には蝋燭がいくつもともされていて、そこだけがやけに明るく見えた。 
 祠の扉は石造りだが、風化して隙間風が音を鳴らしていた。 
 サトシとヒカリが、祠に近づく。 
 そして近づくたびにだんだんと二人の顔は青ざめた。 
 「ぁかないょ~・・・」 
 男の声が、鍵のかけられた祠の扉から漏れている。 
 手が込みすぎている気がする。 
 地元の人間は祠を大切にしているそうだし、こんなことに使うとは思えない 
 「あかないよぉ~~~~・・・」 
 今度は悲痛そうな女の声だ。 
 「ヒ、ヒカリ。早く蝋燭とって帰ろうか」 
 「そ、そうね」 
 さすがのサトシも、これは怖いらしい。 
 ジョーイさんには祠には何も仕掛けてい(驚いて壊されたりしたらごめんだかららしい)ないと初めから言われていた 
 だが声は明らかに祠の扉かの中からする 
 「あかにゃいにゃぁ~~~・・・」 
 また声。今度は呂律もまともに回っていない。 
 「い、いくぞ」 
 「う、うん」 
 慎重に近づき、蝋燭を手に取る。   
 そして―   
 バタン!ドタドタ!! 
 祠の中から多きな音が立って、壊れた石造りの門の隙間から人の指が勢いよく飛び出した! 
 助けを求めるかのようにうごめいている。 
 「「ぎゃああああ!!!!!」」  
 
- スレ1-165
 
- 怪我の巧妙
 - 07/09/12 22:32:06
 
 「だ、大丈夫か?ヒカリ・・・」  
 「ダ、大丈夫・・・じゃないかも・・・」   
 あれはおかしい、いくらなんでも。二人ともそれが共通の答えであり、それを疑わなかった。  
 「あ、あれ・・・、本物かな・・・」  
 「わ、わかんない・・・」  
 ぜぇぜぇと肩で息をして、サトシもヒカリも冷や汗をかいている。  
 「と、とにかく戻るか・・痛っ・・・!」  
 「サ、サトシ?」  
 一瞬顔をしかめたサトシを、ヒカリが心配そうに覗き込む。  
 蝋燭で照らすと、サトシの腕には引っかいたような傷ができていた。  
 しかも結構血が滲んで来ている。  
 「大変!まってて!確か絆創膏あったはずだから」  
 スカートのポケットの探るをヒカリだが焦りと疲れからかなかなか見つからない  
 「大丈夫だって、こんなの舐めれば治るよ。」  
 そういいながら、サトシは傷口に沿って舌を這わせる。  
 「だめよしっかり治療しないと!・・・あった!」  
 絆創膏が見つかって、ヒカリはサトシの腕を取ってそれを貼ろうとした。  
 「あ、また血がにじんでる・・・。」  
 さっきサトシが舐めていた傷口からは、また血が滲んで来ている。  
 「本当はちゃんと消毒しなきゃいけないんだけど・・・。」  
 滲んだ血が痛々しく、ヒカリはせめて血だけでもとそれを舐めた。  
 いきなりの妙な感触に、サトシが少し動揺する。  
 「急いで戻ってタケシに消毒してもらいましょう!」  
 絆創膏を血がまた滲まないうちに傷口に張ると、ヒカリはサトシの怪我をしていない方の腕を取って小走りした。  
 ヒカリ自身、いまさらだがサトシの傷口を舐めたことを妙に意識してしまって少し恥ずかしかったからだ。  
 理由は分からない。ただなんとなく恥ずかしくて、照れ隠しのつもりだった。  
 サトシも引っ張られながらも蝋燭が倒れないように気をつけながらヒカリにあわせて走る。    
 走れば戻りは本当にわずかな距離で、思ったような時間はかからなかった  
 ヒカリはタケシにサトシを押し付けると、救急箱を持ってくるや否や消毒をはじめる。  
 「いたた・・!」  
 「あ、ご、ごめんだいじょうぶ?サトシ・・・」  
 そんな会話を交わす二人に、タケシは微妙に疎外感を覚える。  
 「俺、何のために連れてこられたんだ」  
 そんな一言をぼそりとつぶやいて。  
 
- スレ1-167
 
- 怪我の巧妙~オマケ~
 - 07/09/12 22:43:20
 
 翌朝   
 「ジョーイさん、そういえば昨日あの祠の中から声がしたんですけど・・・。」 
 ヒカリが少し、顔を青くしながら答える。 
 「おかしいわね・・・確かにあそこには誰もいなかったはずなんだけれど・・・。もしかして、昨日祠の中を整理したときにポケモンが入ってしまったのかしら」 
 サトシもヒカリも、顔を見合わせた。 
 あれはポケモンでなく、人の声だった。 
 だったらばあれは本物ということだろうか。 
 「あ、そ、そういえばキャスターを押してきた女の子。あの子雰囲気出ててすごく怖かったですね!」 
 「そ、そうね!非常灯の明かりに照らされて雰囲気あったわよね!」 
 サトシが、話題をはずそうと昨日の少女の話をしたその時だった。 
 「え?俺たちのときはそんな子いなかったぞ?」 
 話を聞いていたトレーナーの一人が言う。 
 そのトレーナーは確認を取るようにロビーを見回すと、目が合った人は次々と首を横に振った。 
 「おかしいわね・・・。そんな子驚かす役には使っていないし、白いワンピースのトレーナーも泊まっていないわ」 
 「「え?」」 
 二人は声をそろえた。 
 じゃああの子はなんだったのか。 
 確かにサトシもヒカリも、その子を見たのだ。 
 そういえば足はあっただろうか・・・透けていた気がしないでもなくなってきた。 
 サトシとヒカリは、顔を見合わせるなり冷や汗をかいて顔を真っ青にしていた。   
 ―――――   
 「ちょっとー!だれかここ開けなさいよ~!!」 
 「お宝があると思って入ったら閉じ込められて・・・おなか減ったのニャ~~!!」 
 「うわ~ん、あかないよぉ~~」 
 祠には、例の、いつもの三人組が閉じ込められていた。 
 彼らは後日発見されるなりジュンサーに追い回される羽目になることもしらず、今はただひたすら助けを求めた。   
 タイトルの誤字の件ですが、いまさら帰るのもあれなのでこのまま終わらせておきます。 
 とりあえずヒカリにサトシを治療させたかったんだけど・・・。   
            了