雨時々・・・
- スレ1-203
 
- 雨時々・・・
 - 07/09/15 20:12:43
 
 その日、サトシとヒカリはタケシとともに買出しに出ていた。 
 旅をしていれば、様々な日用品が必要になる。 
 食材はもちろん、ポケモンフーズの材料や傷薬も、旅の必需品だった。 
 それらに数の余裕があっても、旅をしていている限りは予測できない事態も起こる 
 そういう事態に備えて、ポケモントレーナーに限らず旅をするものは、例外無く街につくと少し余裕を持って必要なものを買っていく。 
 当然サトシ達も旅人であり、街に来ると少なからず買い物をする。   
 今回来た町は大きな町ではないが、大通りには商店が並び、そして地下街もあるために、人の通りは非常に多かった。 
 今回は特別買うものも多く、普段は3人で一緒に買うところをサトシとヒカリ、タケシといった具合に分かれて行動していた。 
 二手に分かれたとき、タケシに渡されたメモには結構な量のリストが載せられている。 
 食材はタケシが自分自身でみて決めるために、食材が集中している地下街にはタケシが向かった。 
 サトシ達は日用品を買うのが仕事である。   
 「ねーねーサトシ、これこれ!」 
 「ん?」 
 ヒカリがどこか楽しそうにこっちをみている。 
 その目にはどこか期待も混じっているような気がして、 
 サトシはヒカリの覗き込んでいるものを、ヒカリと同じような体制でみた 
 そこには色とりどりのパフェやケーキが並んでいる。 
 確かに綺麗だし、みていて楽しい装飾がしてある。何よりおいしそうだ。 
 「確かにおいしそうだけど、買い物のお金は使えないし、俺はお金少ししかもってきてないしなぁ。」 
 書かれている値段は、二つ買ってしまうとぎりぎり足りなくなるというなんとも間の悪い値段だ。 
 一方のヒカリは、見ていれば楽しいらしい。 
 あのポッチャマの飾りが~等、ヒカリらしいといえばヒカリらしい 
 サトシは見ていると食べたくなってしまうタイプだ。 
 でも自分だけ食べるのも気がひける。 
 サトシが諦めて、目をそこからそらしたそのときだった。  
 
- スレ1-204
 
- 雨時々・・・
 - 07/09/15 20:40:02
 
 「お」 
 「どうしたの?」 
 今度はヒカリが覗き込んでくる形だ。 
 サトシが見つけたのは、陳列されているものより多くの量が入ったパフェで、値段も自分が払える程度のものだった。 
 これならヒカリも食べられるし、大丈夫そうだ。 
 「ヒカリ、ちょっと食べてくか」 
 「え?でもお金・・・。」 
 「大丈夫大丈夫。」 
 ヒカリは少し戸惑いながらも、まあサトシが言うなら大丈夫だろう、と後を追って店に入った。 
 夏が終わったとはいえしつこく残る残暑に、店内もクーラーがついていて涼しかった。 
 とりあえず空いている席に向かい合って座ると、ウェイターがやってきて注文をとった。 
 「これください、スプーン二つで」 
 ビッグパフェにもいろいろあるらしい。 
 ヒカリは何でもオーケーらしく、とりあえずスタンダードなものを頼むとウェイターはそそくさといってしまった。   
 パフェが届いてみればヒカリもサトシの行動の意味が分かったようで、 
 二人でパフェをつついていた。 
 「後何買えば良いんだっけ?」 
 「傷薬に脱脂綿に、裁縫針と絆創膏、糸と包帯と・・・。」 
 サトシがあげたものは医薬関係ばかりだ。 
 「じゃあドラッグストアね。」 
 「そうだな。」 
 なんとなく二人は無言だった。 
 ひとつの大きなパフェを二人で食べている特殊な状態が、ちょっと珍しかったからだ。 
 「サトシ。」 
 「ん?」 
 とつぜん、ヒカリが親指で唇をこすった。 
 一瞬びっくりするも、サトシはあまり動じてはいない様子だ 
 「どうしたんだよ」 
 「だって、チョコレートついてたんだもん」 
 親指についたチョコレートを口惜しそうになめるヒカリは、周りの視線に気がついていない様子だった。 
 それはサトシも同じであり、唯一気がついていたピカチュウだけが、肩を縮ませた。  
 
- スレ1-206
 
- 雨時々・・・
 - 07/09/15 21:06:00
 
 「ありがとうございましたー」 
 にこやかに見送る店員の顔は、僅かに上気していた。 
 「でも、よかったの?サトシのお金でしょ?」 
 「気にすんなって。一人で食べてもつまらないだろ?」 
 そんな会話をしながら、店外へ出る。 
 「「あ」」 
 外はしとしとと雨が降っている。 
 通りの石のタイルはぬれて色を濃くし、 
 並んでいる店先の屋根で雨宿りをしている人も何人かいた。 
 「どうする?私たち傘もって無いけど・・・。」 
 「まだ本降りじゃなさそうだし、店まで走れば間に合うかも」 
 「うん、大丈夫!いける!」 
 すでに買ってある荷物を持ち直して、二人は一気に駆け出した。 
 思った以上に大通りは広い。 
 10分ほど走って、ようやく目的の店へとたどり着く。 
 「あーあ、やっぱぬれちゃったな」 
 雫が落ちる髪と、服をみながらサトシはやってしまったという顔をする。 
 ヒカリも肩で息をしながら、ダイジョバなかった・・・などとぼやいていた。   
 店に入ると、外の雨にもかかわらず中は冷えていて、体が濡れている二人はそろって身震いした 
 特にヒカリは、肩から露出しているために鳥肌を立てている。 
 それに気がついたサトシはなにか着せるものをさがしたが、あいにく自分はそんな物みにつけていなかった 
 「そうだ」 
 買い物袋の中をごそごそと漁って、一枚のタオルを取り出す。 
 「ヒカリ、これ肩にかけてろよ」 
 タオル、とはいっても表面は毛布のような感触で肩にかけると素肌に触れて心地よかった。 
 「サトシは?」 
 「俺は大丈夫だって、ヒカリが風邪引いたら大変だしな」 
 「うん、ありがとうね、サトシ」 
 「気にするなって。さ、早く買い物済ませようぜ」 
 サトシは買い物袋を持ち直すと、メモを確認しながらヒカリと買出しを再開した。  
 
- スレ1-219
 
- 雨時々・・・
 - 07/09/16 08:50:25
 
 「まだ降ってるなぁ・・・。」 
 レジで会計を済ませ、外に出たサトシの第一声がそれだった。 
 雨はさっきよりも強さを増している。 
 「仕方ないか。」 
 サトシとヒカリは仕方なく、雨宿りをすることにした。 
 とはいってもそれはあまりに不本意なものだ。 
 もともと二人とも、じっとしているのが好きなタイプではない。 
 別にこの雨の中を走ってもよかったのだが、お互いの体のことを考えればそれはできなかった。   
 屋根の下はサトシとヒカリの二人だけで、店から出てくる人たちは傘を差して帰っていく 
 その光景はなんとなく寂しく、幼い頃遊びに出かけた先に急に雨が降ってしまって、 
 親が迎えに来てくれるのをまってるような気分でヒカリは無意識のうちにサトシの手を握る。 
 「ヒカリ?」 
 サトシの呼びかけにはっと気がつくと慌てて手を解いた。 
 「あ、なんでもないの。」 
 自分でも手を握っていたことにびっくりして、そわそわしながら辺りを見回す 
 「あ」 
 ヒカリは軒先に無料で貸し出されている傘が一本だけ残っているのに気がついた。 
 「サトシ、あれ使おうよ」 
 「でもあれ一本だけじゃ・・・」 
 「一緒に入れば大丈夫!」 
 「ああ、なるほど」 
 くるくると、ヒカリは機嫌が良いのか傘をゆっくりと回す。 
 いつの間にか人通りは消えて、大通りを歩く人の波もまばらだった。 
 サトシは荷物を両手に、ヒカリは片手にピカチュウと、もう一方は傘。 
 傘は少し小さく、二人でくっつかないと濡れてしまう。 
 いくら気をつけてもどちらかの肩は濡れてしまうが、二人はそれでも暖かく感じていた。 
 お互いの体温が雨に混じって解けていくような感覚。 
 お互いが安心できる存在感がそこにあって、狭くなることはあまり気にせずに、一人分の傘に二人で入った。 
 「お、タケシだ」 
 タケシが向こうで、こちらを見つけて手を振っているのが分かる。 
 手にはもう少し大きな傘を持っていたが、サトシもヒカリも、その傘に持ち直そうとは思えなかった。 
 「まあ・・、別にこのままでもいっか」 
 「うん、大丈夫」 
 そう言ったサトシに、ヒカリがうれしそうに返す。 
 もう少し、ポケモンセンターまではこのままでいよう。 
 お互いにそれは通じ合っていて、ヒカリとサトシは差し出された傘を断ると、ちょっと気恥ずかしげに笑いあった。