昼下がりの情景
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 - 07/09/28 15:55:28
 
 一発ネタだけど投稿。   
 港から潮風が吹き込んでくるミオシティの空はぬけるように青く、秋の穏やかな日差しが射していた。 
 そんな情景が広がるミオシティはコトブキシティの西にある。 
 広さで言えばコトブキシティには劣るが港町のため船が行き交い、シンオウで一番大きい図書館がある。 
 ジム戦の為にここに来たサトシとヒカリ、タケシだったが、道中ナオシと会って同行し、ここの事を聞いたのだ。 
 とはいっても、サトシは元よりあまり本を読まない。 
 最初こそポケモンにまつわる昔話をヒカリと二人で読んでいたものの、 
 しばらくするとトレーニングにいってくると外に行ってしまった。 
 ヒカリはなんとなく、それが面白くなかったのか少し不機嫌だ。 
 一冊の本をあーだこーだといいながら読んでいくのは楽しいもので、 
 トレーナーとコーディネーターの考え方の違いも出てきて参考になったりする会話もある。 
 一緒に読む相手ならタケシやナオシでもいいかもしれないが、何かそれは違う気がする。 
 自分が求めているのとは少し違う気がすると、ヒカリは首を横に振った。 
 「やっぱりサトシじゃないとなぁ・・・。」 
 本を片手に、いろいろ考える。 
 トレーニングの邪魔はしたくないが、やっぱりここは付き合ってほしい感情もある。 
 「とりあえず、サトシのトレーニングを見ながら読めばいいか!うん!大丈夫!」 
 なにやら一人で納得して大きくうなずき、本を3冊ほど借りて外へ出て行くヒカリの様子に、タケシとナオシは思わず顔をあわせた。    
 
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 - 07/09/28 16:16:56
 
 「うーん・・・」 
 サトシは唸った。 
 トレーニングにいくといって外に出た矢先、いい場所が見つからない。 
 港町としてできた町のミオシティには、トレーニングできるような広い場所がない。 
 唯一、ちょっとした広場があるがあそこは地元の子供たちの遊び場のようで、トレーニングをしたら迷惑になるのは目に見えていた。 
 「かといって戻るのもなぁ・・・」 
 本を読むのが嫌いなわけではない。 
 始めこそ内容を面白く感じたのだが、二人で一緒の本を見ていた所為だろうか? 
 肩が触れたときに少し意識してしまった。 
 なんとなくそれからヒカリとの距離を気にしてしまい、本に集中できなかったのだ。 
 今は落ち着いているが、あれはなんだったのだろう。 
 とにかく、トレーニングをするという名目で出てきた以上は、のこのこ帰っていられない。 
 しかし場所がないのではそれもできない。 
 仕方なくサトシは、広場の南の大地にある木にもたれかかった。 
 穏やかな風が雲を動かしていく、ピカチュウはいつの間にか隣で眠りこけていて、可愛らしい寝息を立てていた。 
 すこしまぶたが重たい、眠ってしまおうかと思った矢先だった 
 「あ!サトシ!」 
 聞きなれた声がどこからかかかって、サトシはぎょっとして辺りを見回した。 
 「ヒカリ!」 
 「トレーニングするんじゃなかったの?」 
 駆け寄ってきたヒカリに、サトシは苦笑しながら 
 「トレーニングの場所がなくてさ・・・」 
 と答える。 
 ヒカリはそれを聞くなり 
 「そうだったんだ」 
 と言いながらヒカリはピカチュウの反対隣に腰掛けた。 
 再び、サトシとの距離が近くなる。 
 「なんかうれしそうにしてないか?」 
 「え?そう?」 
 言われてみればそうかもしれない。 
 サトシには悪いが、相手をしてもらえるチャンスだから。 
 ヒカリは借りてきた本の中から一冊を選ぶと、それを開いた。  
 
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 - 07/09/28 16:30:06
 
 「何の本だ?」 
 「ん?これ?相性占い!」 
 とたん、ヒカリの顔がぱっと輝いた。 
 女の子は占いがすきと聞いたことがあるが、ヒカリもそうなのだろう。 
 早く読みたいと手と目がかたっている。 
 「そういえば相性チェッカーってポケッチにあったけど、あれって人間同士でもできるのかな?」 
 サトシが思ったことをそのままにいった。 
 「そういえば・・・」 
 相性チェッカーはポケモンにしか使ったことがない。 
 人間にやったらどうなるんだろう。 
 「やってみようぜ」 
 「うん」 
 ポケッチの相性チェッカーのアプリを起動して、サトシに向ける。 
 画面のハートは・・・・   
 「・・・。」 
 「・・・小さいな・・・。」 
 一番最初にポッチャマに使ったときくらいのハートしかない。 
 「ま、まあこれポケモン用だし、それにあくまで占いみたいなものだし・・・」 
 「そ、そうよね、大丈夫、大丈夫・・・。」 
 言い聞かせるように、今度は人間用の相性占いが乗っている本を開いた。 
 当てはまる条件のページを、少し緊張しながら開いた。 
 「「・・・」」 
 二人で覗き込む。 
 「96パーセント・・・」 
 「あたしとサトシって相性いいのね・・・。」 
 二人はこの占いを完全に信じきった様子で、ページをめくっていった。 
 案外当てはまるかも・・、ということがいろいろ書いてある。 
 なんとなくそんな気になるだけだといってしまえばそれでおしまいなのだが、それでもちょっとこの結果はうれしい。  
 
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 - 07/09/28 19:51:36
 
 ――――――   
 どれくらいたっただろうか。 
 サトシは、ヒカリがめくったページを覗き込むことすら厄介になっていた。 
 その要因は眠気だ。 
 ヒカリとまた肩を並べてあーだこーだといいながら本を読んでいたのだが、 
 ヒカリやピカチュウの体温で再び程よく眠気が誘われてしまってうとうとしている。 
 外で寝たら風邪を引くかもしれないと眠らないようにがんばっていたサトシだったが、 
 結局サトシは眠気に負けてしまい、いつの間にか眠ってしまった。 
 「―サトシ?」 
 隣から反応がなくなったことに疑問を持ったヒカリが、横目でサトシを見る。 
 すると隣では、サトシが気持ちよさそうに眠っていた。 
 せっかく一緒に本を読んでいたのに、とため息をついてしまうヒカリだったが、サトシを見ていると文句もなくなってしまった。 
 髪は硬そうでぼさぼさだが、結構顔立ちは整っているように思う。 
 ヒカリは、一生懸命さの中にちょっとした子供っぽさがあるサトシが気に入っていた。 
 その性格に、一生懸命さに何度も励まされたし、勇気をもらったものだ。 
 心強い仲間―では済まされないような感情があることを自覚しているが、それがなんであるかまったく検討がつかない。 
 ただ、一緒にいると安心できるというのは本音で、そばにいないと不安だったりするのだ。 
 だから・・・というわけではないが、ポケモンセンターでは一緒にテレビを見るし、こうして一緒に本を読む。 
 ポケモンのパートナーはポッチャマだが、人間のそれはサトシなのかもしれない。 
 相手がどう思っているかは分からないが、少なくともヒカリにとってはそうだった。    
 
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 - 07/09/28 20:05:56
 
 「あ・・・」 
 木の幹から、サトシの体がずれて反対側へ倒れそうになる。 
 ヒカリはあわててそれを支えると、自分ごと引き倒した。 
 あのまま地面と激突させるのはあまりにもかわいそうだ、 
 と自分よりも重たいサトシを無理やり引っ張り上げたら一緒にヒカリまで倒れてしまう。 
 「・・・」 
 それでもなおサトシは眠っている。 
 よほど気持ちいのだろうか、寝顔は穏やかで、倒れた拍子に起きる様子は見られなかった。 
 ヒカリは自分自身の体をどうにか起こすと、膝の上にサトシの頭を置いた。 
 さすがに元のように戻すのは難しい。少しくすぐったいような気もしたが、別に問題ないだろうと気に留めなかった。 
 「ふぅ・・・」 
 少し疲れた。 
 サトシの体を引っ張ったりした所為だろうか? 
 なんとなく体が重たい。 
 ずるずると泥に入り込むような感覚。 
 さすがにここで寝てはまずい、そう思いながらもヒカリが夢の世界に入るのにさほど時間は必要なかった。   
 日も暮れなずんで、ヤミカラスがちらほら出てき始めた頃だった。 
 あまりにも帰りが遅いサトシとヒカリを探しに来たタケシとナオシは、木にもたれかかって眠る二人を見つけるなり面食らった。 
 「あんなところで寝たら風邪引くぞ・・・」 
 タケシが起こそうと、そばへよる 
 「待ってください、こんなにも気持ちよさそうに眠っているのですからしばらくはそっとしておいて上げましょう」 
 そういうなりナオシは、どこからともかくタオルケットを取り出した。 
 ずいぶんと大きい。 
 タケシは少し難しい表情を浮かべたが、すぐに納得するとそれをサトシとヒカリにかけた。 
 といっても、サトシは顔にまでかかってしまうのでずいぶんと中途半端なものではある。 
 「私たちも、特に用事はありませんしここで寝ましょう」 
 街中の星も乙なものですよ。とにっこりと笑うナオシは懐からことを取り出すと、優しい音色をかなで始めた。 
 サトシとヒカリが起きるそのときまで。