心の前奏曲(プレリュード)
- スレ1-391
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-プロローグ
 - 07/10/08 19:36:48
 
 映画っぽい展開にも挑戦してみようということで長編になると思います 
 多分以前執筆したJよりも長いです。   
 「はぁっ、はぁっ・・・!!」 
 「まだ追ってくる・・・!?」 
 「追いつかれちゃうよ・・・!」 
 暗闇に支配された森の空気を、幾度も銃声が振るわせた。 
 冷たくなった土を蹴って、必死に逃れているのは三人の少年少女だ。 
 慣れない体、縺れる足、何より恐怖が、三人の心を蝕んでいた。 
 「うわっ!!」 
 そのうちの一人が、木の幹に足を取られて躓いた 
 「リット!?」 
 「早く行って!ユクをお願い!!」 
 「そんな!君も!」 
 二人は思わず立ち止まってしまった。 
 見捨てることなどできない、そういうように、ユクと呼ばれた少年が手を差し伸べようとしたそのときだった。 
 「そこか!」 
 足元で爆発が起きて、土が抉れた。 
 ゆるくなった地面が、崩れていく。 
 「リット!!・・・うわぁ!!」 
 差し伸べられた手をつかんだそのとき、 
 三人は崩れる土砂に巻き込まれて下へと落ちていった。  
 
- スレ1-392
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-三人-
 - 07/10/08 20:07:49
 
 sageるの忘れてた・・・申し訳ない   
 山小屋の様なポケモンセンターを出れば、外は昨日の雨にもかかわらず晴れ渡っていて、 
 ヒカリは気持ちよさげに伸びをした。 
 ところどころ水溜りはあるが、この天気なら、そのうち地面も完全に乾くだろう。 
 「ヒカリ、何読んでるんだ?」 
 「これ?ジョーイさんにもらったの。この近くにはね、感情とか、知恵とか、心にまつわるポケモンの話があるんだって。」 
 「へー」 
 ポケモンに関係すると聞いて、サトシも興味を持ったのだろう、どんなのだろう?と目が言ってるのが、ヒカリには分かった。 
 「私もまだ読み始めたばっかりなんだけど、サトシも一緒に読む?」 
 「そうだな、一緒に読むか」 
 少し考えた風にサトシは唸ったが、すぐに色よい返事を出す。 
 それを聞いたヒカリはうれしそうに笑っていた。 
 「・・・ピ?」 
 サトシの肩の上で、ピカチュウが何かを気取った。 
 「どうした?ピカチュウ」 
 「ピカ、ピカピカ」 
 ピカチュウが何かを訴え始めると、サトシの腰のボールが開いてナエトルも出てくる。 
 二匹はなんとなく必死な様子だ。 
 三人が顔を見合わせていると、やがて二匹は、茂みの中へと走っていった。 
 「あ、おい!」 
 サトシが二匹を追いかけると、それにヒカリとタケシも続いた。 
 木の根を飛び越え、草を掻き分け、その先にあったのは崩れ落ちた土砂の塊だった。 
 「これは・・・、まだ新しいな・・・。」 
 タケシが近づく。 
 まだ土砂には水分が残っている。 
 しかし一部の土は黒くこげ、カラカラに乾いていて、タケシはそれになんとなく違和感を感じた 
 「ピカピ!」 
 「ピカチュウ!どうしたんだ?」 
 「ピカピ、ピカチュ」 
 ピカチュウが土砂を指差している。 
 何があるのだろうか、とサトシとヒカリは目を凝らした。 
 「「あ!」」 
 土砂の中からは、人の腕のようなものが見え隠れしていた。 
 「大変だ・・・!ヒカリ!」 
 「うん!」  
 
- スレ1-393
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-出会い-
 - 07/10/08 20:21:31
 
 土砂の中からは、少年と少女が三人出てきた。 
 三人ともサトシやヒカリよりも幼い、7才位だろうか? 
 酷く衰弱している彼らは、髪の色以外は瓜二つで、三つ子のようだった。 
 ポケモンセンターに運んでしっかりと手当てしてやるのが一番よかったのだが、 
 ポケモンセンターからはずいぶんと離れてしまっている。 
 むやみに動かすわけにも行かず、一向は崖を少し離れたちょっとした広場で暖を取っていた。 
 薬を飲ませると少し落ち着いたのか、彼らは寝息を立てている。 
 サトシとヒカリはその様子をずっと見ていた。 
 なんとなく放っておいてはいけないような気がしたのだ。 
 「う・・・・ん・・・」 
 やがて、一人が目を覚ました。 
 青い髪の少年だ。彼はおきてサトシ達を見つけるなり、一瞬体を強張らせた。 
 それに反応するかのように、残りの二人も目を覚ます。 
 そしてその二人も、サトシ達を見るなり警戒するような反応をした。 
 「あ、あの・・・、君達どうしてあんなところにいたの?」 
 サトシはそんな彼らの様子に少し戸惑っていたが、思ったことを口にしてみた。 
 「僕達は・・・、その・・・」 
 少年は明らかに躊躇していた。 
 どうしようか・・・、そう思っていた矢先のことだった。 
 「ゆっくりでいいよ、落ち着いて思い出してごらん」 
 いつの間にかサトシとヒカリの後ろにいたタケシが、優しい目つきで言った。 
 それを見て少し安心したのか、意を決したかのように三人は口々にこういった。 
 「狙われているんです。怖い人に」  
 
- スレ1-394
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-理由-
 - 07/10/08 20:47:39
 
 「怖い人って、いったい誰に?」 
 サトシが3人に聞いた。 
 「分からないんです。暗かったし・・・。」 
 「そっか、でもなんで狙われてるの?」 
 さらに聞かれると、三人は口を閉じてしまった。 
 「言わなきゃ分からな・・・」 
 どこか拒絶するかのような態度に、サトシの言葉が荒くなってくる。 
 しかしタケシはそれをたしなめながら 
 「話せない理由があるのなら、話さなくてもいいさ。俺たちでポケモンセンターまで届けてあげよう」 
 「そうね、ポケモンセンターなら安全だし・・・。」 
 「あっ、あの、ポケモンセンターじゃないんです。」 
 「え?」 
 一向は意外そうな顔をした。 
 ポケモンセンターならば人の手もある。 
 安全な場所だと思ったからだ。 
 「もっと安全なところがあるんです、僕達、そこに逃げようとしていたら崖から落ちちゃって・・・。」 
 「そうだったのか」 
 「あの、助けてくれてありがとうございました。僕はグノムって言います」 
 青い髪の少年は、年の割に礼儀正しい口調で言った。 
 それに続いてさくらんぼのような髪の色をした少女がおろおろとしながら 
 「リットです、よろしく・・・。」 
 「この子はユク、すごく臆病で・・・」 
 みるとユクと呼ばれた黄色い髪の少年は、リットの後ろで震えていた。 
 それを見たグノムが、大丈夫だよ、この人たちは。と声をかける。 
 「狙われたのはユクなんです。僕らは、ユクが危ないと知って一緒に逃げてて・・・。」 
 「それで、さっき言ったもっと安全な場所・・私たちは聖地って呼んでるんだけど」 
 「つまり、そこに行く途中で崖から落ちちゃったのか。」 
 「はい」 
 サトシはヒカリ、そしてタケシに向き直ると、確認するかのようにうなずいた。 
 「分かった、そこに行くの俺たちも手伝うよ。俺はサトシ、こいつは相棒の・・」 
 「ピカチュウ!」 
 「私はヒカリ。」 
 「俺はタケシ、痛むところがあったら言ってくれ。」 
 グノム、リット、ユク。 
 彼らは少し安心したかのように口元を緩めた。 
 「ありがとう・・・ごめんなさい・・・。」 
 そして小さく、本当に小声で謝る、他に聞こえないような声で。  
 
- スレ1-395
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-襲撃-
 - 07/10/08 21:09:48
 
 三人の先導を受け、一向は深い森を歩いていく。 
 進めば進むほどに、森の中は複雑な音を作り出していた。 
 風の抜ける音、鳥や虫の鳴き声、ポケモンたちの音。川の流れる音。 
 いつもと違い、どこかこの森は不思議な感じがすると、サトシは感じていた。 
 懐かしいような、そんな感じがする。 
 ―プツン 
 不意に足元で何かが切れる音がした。 
 「え?」 
 足元には、糸が張ってあった。 
 なぜこんなところに糸があるのか。 
 そう身をかがめた瞬間、ユクの悲鳴が聞こえてサトシは顔を上げた。 
 「ユク!!」 
 ユクを連れ去った影は、振り子のように動くロープの頂点で高台に飛び乗り、こっちを向く。 
 「確かにこいつはもらっていくぞ」 
 「ユク!ユク!」 
 リットが悲痛な叫びを上げる 
 「その子を放しなさい!」 
 「そればできんな。わしの願いをかなえるにはこいつが絶対に必要なのだ」 
 「願い?」 
 その影は、よく見てみれば弱い90を超えるのではないかという老人であった。 
 周りの景色に溶け込む迷彩柄の服には植物の蔦を這わせ、頭には苔が生えている。 
 ところどころしみができたその肌は浅黒く、森での生き方を知っているような風貌だった 
 しわがれた声は空気を震わせるほどに大きい。 
 それはまるで、獲物を獲た喜びを表しているかのようだった。 
 「小僧には分かるまいて。邪魔をするならば少し眠ってもらうぞ・・・!」 
 サトシもヒカリも、モンスターボールに手をかける。 
 タケシはグノムとリットを安全な場所へ移そうとする、が 
 「ユク!!!」 
 リットが突然、光弾を放ったかと思うとそれを老人にぶつけた。 
 「ふん」 
 しかしそれは無常にも、妙な機械で反射されてしまう。 
 そしてその光弾は、ヒカリへと向かっていた。 
 「ヒカリ!危ない!!」 
 ヒカリはそのとき、自分をかばって光弾に巻き込まれるサトシの姿を、やけにゆっくり感じていた。  
 
- スレ1-397
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-水星-
 - 07/10/08 21:22:37
 
 ↑ 弱い→齢の変換ミスです。   
 「あぶない!」 
 とっさに、グノムはリットのものと似た光弾で、サトシを巻き込む寸前のそれを仲裁しようとした。 
 力と力がぶつかり合い、小さな爆発を起こす。 
 「うわっ!」 
 サトシはそれに飲み込まれると、糸の切れた操り人形のようにぱたりと倒れてしまった 
 「サトシ!」 
 ヒカリが青い顔で駆け寄る。 
 その様子を見た老人は苦いものを噛んだような顔をした。 
 目的のためとはいえ、子供を巻き込んでしまった、と。 
 だが今はかまっていられない発煙筒を使って逃げようと試みる。 
 しかしそれは手の上で弾かれた。 
 「むぅ!?」 
 「その子を離しなさいマーキュリー」 
 「エマか・・・。」 
 「あれは・・・!」 
 タケシはその人物が着ている服を知っていた。 
 あれはポケモンレンジャーのものだ。 
 「悪いけどここまでよ。」 
 「どうかな・・・。」 
 「っ!?」 
 マーキュリーと呼ばれた老人は、いつの間にか足元へ手繰り寄せていた発煙筒を器用に足で起動した。 
 煙が晴れた頃には、すでに彼とユクの姿は消え、あたりはまた森の静けさだけが残っていた。  
 
- スレ1-398
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-喪失-
 - 07/10/08 21:36:54
 
 「サトシ!サトシ!ねえ!起きてよサトシ!」 
 ヒカリは必死にサトシを揺り動かしていた。 
 あの爆発に巻き込まれてから、サトシは目を閉じたきり答えない。 
 心臓は動いているのに、やけに体が冷たく感じて、ヒカリは必死にそれを否定しようとした。 
 「ヒカリ!サトシは!?」 
 「それが・・・」 
 ヒカリの目は涙で潤んでいた。飛ばされた帽子を拾いに行こうともせず、必死で呼びかける。 
 しかし、まったく動く気配はない。 
 リットとグノムは、ただそれを申し訳なさそうな目で見ていた。 
 「ごめんなさい、ヒカリさん・・・。」 
 「私たちの所為で・・・。」 
 「え?」 
 ヒカリは彼らが何を言っているのか分からなかった。 
 「どういうこと・・・?」 
 「君達はいったい・・・。」 
 タケシは、彼らがただの人間でないことに感づいていた。 
 さっきの光弾もそうだが、なんとなく、彼らは'違う雰囲気'があった。 
 「実は僕達、ポケモンなんです」 
 「「なっ!?」」 
 二人は信じられないといった様子で目を見張った。 
 唐突にそんなことを言われても信用できるはずがない。 
 「信じてもらえないのは分かっています、でも―」 
 グノムとリットが、お互いに顔をあわせて頷く。 
 すると彼らは光に包まれ、人の頭ほどの大きさのポケモンになっていた。 
 「僕達はそれぞれ、意思、感情、知恵をつかさどるポケモンなんです。今はテレパシーで言葉を伝えています」 
 「きっとサトシさんは、私たちの攻撃を相殺したときの爆発の影響で、その内の『意思』が失われたんだと思います」 
 意思、感情、知恵をつかさどるポケモン。 
 「伝説のポケモンといわれている、アグノム、エムリット、そしてユクシー。あなた達がその三匹・・・。」 
 高台を滑って、ポケモンレンジャーの女性が降りてくる。 
 「マーキュリーが狙っていたのは、あなた達だったのね」 
 「はい、この姿をさらした以上、全てをお話します、聞いていただけますか?」 
 テレパシーは、エマにもタケシにも、もちろんヒカリにも伝わっていた。 
 ヒカリはサトシを腕に抱いたまま、彼らの話に耳を傾けた。  
 
- スレ1-402
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-エマ-
 - 07/10/08 22:20:14
 
 「僕達は、皆さんが知っている通り、意思や感情といった、動物の内面を司るポケモンです。」 
 「私たちはそれらを与える役を終えた後、永い眠りにつきました」 
 「ところが数日前、ユク・・・。つまりユクシーがあの人間に襲われて、僕のところに逃げてきたんです」 
 「私もテレパシーでそれを感じて、3匹で人間に化けました。でもそれも気づかれて、こんなことに・・・。ごめんなさい・・。」 
 二匹は命を奪われたように動かないサトシを見た。 
 「彼を元に戻すには、眠りの途中だった私たちでは力が足りません。」 
 「だけど、聖域の神殿に行けば手がかりを得られるはずです」 
 それをきくと、ヒカリはすぐに行こうとせがんだ。 
 しかし、それを、後ろからの声に止められる。 
 「だめよ。」 
 それはポケモンレンジャーの女性だった。 
 年齢は20代前半程で、タケシが真っ先に飛びつきそうな綺麗な人だ 
 「あなた達を襲ってきたあのおじいさん、誰だかわかる?」 
 「え・・?」 
 「彼は元はある組織に所属していた、そのときのコードネームはマーキュリー(水星)。あんなよぼよぼでも、結構危険な奴よ。」 
 アグノムたちにゆっくりと、腕を組んで歩み寄りながら、彼女は話を続ける。 
 「元いた組織の情報のためというのもあって、指名手配されているの。先日その情報がこっちに入ってきて、私がその担当というわけ」 
 そしてヒカリに向き直って、冷たく言う 
 「残念だけどその子は諦めなさい。」 
 タケシが、何よりヒカリが表情を険しくした。 
 「お言葉ですが・・「できるわけないじゃないですか!!」」 
 「サトシは・・・大切な・・・・。 
 涙をこぼしながら、ヒカリは叫んだ。 
 サトシはヒカリにとって、頼れる存在であり、絶対に失いたくないものだった。 
 「・・・・危険を冒しても、来る覚悟はある?」 
 「中途半端な覚悟でくれば、あなたも彼と同じ目にあうのかもしれないのよ?」 
 「それでも行きます。」 
 その目を見て、彼女は一つため息をつく 
 「仕方がない・・・。あなたの大切なナイトのためにもがんばりなさい。私はエマ。見てのとおりポケモンレンジャーよ」 
 「え・・・?は、はい!!」 
 一瞬、何を言われたのか分からないような表情をしたヒカリだったが、すぐに肯定の意味をとるとうれしそうに返事をした。  
 
- スレ1-416
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-覚悟-
 - 07/10/11 21:53:06
 
 「なーんかさぁ、あたし達場違いみたいな雰囲気よねぇ」 
 草陰から、自分達の存在を悟られないように小声で話す。 
 それはいつもやっている行為だが、いつもと違う場の雰囲気にロケット団は戸惑っていた。 
 「なんか、すごい大変なことになってるみたいだな・・・。」 
 「おみゃーら何行ってるニャ!今こそピカチュウを・・・」 
 本来なら、これはピカチュウを奪う絶好のチャンスだった。 
 トレーナーがいないというのは、やはり大きい。 
 「なーんかあんなジャリガールとジャリボーイじゃぁねぇ・・・」 
 「気分乗らないというか・・・なんというか・・・」 
 「それもそうだにゃぁ・・・。」 
 それでも、いつも腐れ縁のように張り合っていた彼らが、あんなにも消沈している。 
 そんな様子を見てしまった所為か、ロケット団たちはどうも行動を起こす気がおきずにいた。 
 「しばらく・・、様子見よっか」 
 「そうするか・・・」 
 「そうするにゃ」 
 「ソーナンス!」   
 ――――――――――――   
 息を切らせながら、木の根が波打った道を歩く。 
 足元は泥と傷にまみれていたが、それを気にも留めずにヒカリは歩いた。 
 「ヒカリ、やっぱり俺が・・・。」 
 「だ、大丈夫・・・。」 
 そういいながらも、足から力がかくんと抜けてしまい、ヒカリは地面に再びひざをついた。 
 ヒカリの肩には、眠ったままのサトシが肩を借りた状態でその体を預けている。 
 後ろからそれを懸命に支えるピカチュウも、ヒカリを気遣い、心配そうな声を上げた。 
 「大丈夫・・・だから・・・」 
 本来なら、体格の上でもタケシがサトシを運ぶべきだった。 
 しかしヒカリは、いざ運ぼうとしたときに自らその役を買って出たのだ。 
 タケシはヒカリに負担がかかると、やめさせようとしたのだがヒカリの目がそれを許していなかった。 
 自分にやらせてほしい、そういう目だった。 
 しかしそれでも、少女の体には過酷なことなのだろう。 
 ヒカリの唇は震え、足は笑っている。 
 それでもサトシに貸した肩をくずさずに、一歩を踏み出していた。 
 汗が地面をぬらしていく。 
 ヒカリの体力は限界に近いはずだった、足がおぼついていて、今にも転びそうだ。 
 「っ!!」 
 そして案の定、ヒカリが息を呑んだかと思うと、木の根に足を取られて、転んでしまった。  
 
- スレ1-417
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-涙-
 - 07/10/11 22:15:43
 
 「ヒカリ!」 
 「ピカピ!」 
 転んだヒカリに、タケシとピカチュウが駆け寄る。 
 「ごめんね・・・、皆・・・、でも、だいじょう・・」 
 ヒカリはそのまま、疲れの所為か気を失ってしまった。 
 湿度も高い森の中で休憩もとらずに歩いていた以上は、無理もなかった。 
 「ヒカリ!」 
 タケシがサトシとヒカリを日陰に横たわらせる。 
 怪我を負っている。膿む前に消毒しなければならない。   
 「・・・う・・・ん・・・」 
 やけに空が高い。 
 いや、正確に言えば、自分が眠っているからだと気がついて 
 勢いよく体を起こしたヒカリは、全身に走った痛みにからだを強張らせた 
 「サトシは・・・」 
 足を動かすのも辛かったが、それでも始めに放った言葉は、からだの痛みによる悲鳴ではなくサトシの名前だった。 
 「無理をするからよ。」 
 意識がサトシに集中していた所為だろうか、すぐ横で濡れたタオルを持って座っているエマにヒカリは気がつかなかった。 
 「エマさん・・・。」 
 「今タケシ君が夕食を作ってくれているわ。今日は夜も近いし、ここでキャンプよ」 
 「そんな!私はまだ・・・痛っ!!」 
 「身体は正直ね。そんなボロボロな状態で、怪我までして。もしサトシ君が助かっても、あなたが倒れて彼が喜ぶと思う?」 
 「それは・・・。」 
 自分に置き換えればすぐに分かる、喜ぶことなどできるはずがない。 
 なぜそんなになるまで無茶をしたのかと、きっとそう言うだろう。 
 「一生懸命になるのと無茶をするのとは違う、あなたにはあなたの役割がある」 
 「役割・・・?」 
 「そう、サトシ君が目覚めたときにそばにいてあげることもそうだけど、あなたにはやることがたくさんある。ここで倒れてていいはずはない」 
 「・・・。」 
 「あなたにはたくさん仲間がいる、そうでしょう?」 
 思えば自分は、サトシを助けようとやけを起こしていたのかもしれない。 
 助けたいという気持ちに嘘はない。 
 だからこそ、今はその言葉を信じたかった。 
 「今日はゆっくり休みましょう。明日は早いから。」 
 「はい。」 
 自分の不甲斐なさにも、そしてそれを咎めない仲間達の優しさにもヒカリは思わず涙をこぼした。 
 その様子を見て、エマが始めてやわらかく笑った。  
 
- スレ1-418
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-聖域-
 - 07/10/11 22:55:28
 
 空に少し雲がかかっているが、それでも時々日が射す森の中は奥に進むほどに静けさを増していった。 
 昨日の事もあって、ヒカリはサトシの荷物を、タケシがサトシを背負っている。 
 足はまだ痛んだが、それでもタケシが治療してくれたおかげで大事にはならずにすんだ。 
 昨日エムリットが、サトシが攻撃の影響で奪われたのは'動く意志’と言っていた。 
 爆発に巻き込まれたサトシは、意思を司るアグノムの攻撃の特性に影響を受けたらしく、感情は欠落しているわけではないとの事だった。 
 それでも、事態は急がねばならなかった。 
 連れて行かれたユクシーのことも気になる。 
 エムリットとアグノムの先導でやがてたどり着いたのは、太陽の光とは違う、どこか不思議な森だった。 
 奥の石造りの壁は一見すると行き止まりのように見えたが、アグノムたちはするりと通り抜けてしまう。 
 聖域を守るカモフラージュになっていた。 
 「あの人間・・・マーキュリーも、おそらくここに来るはずです」 
 「私たちの力を使うつもりなのでしょうが、それを強制的に使うには、ここに来るしかありませんから」 
 「何でそんなところに逃げ込もうと?」 
 「ここは三匹がそろうことで強力な結界を張ることができるんです。」 
 「僕らは一つのたまごから生まれましたから、互いに干渉しあうことが多いんです」 
 やがて、かつて建物があったことを思わせる石柱がところどころに横たわる広場に出る。 
 「この先です。僕たちの力を増幅させる装置は。ここの一番奥。」 
 「サトシさんを治すには、その装置を意思の象徴で作動させればいい」 
 「つまり、アグノムで・・・?」 
 タケシの問いかけに、アグノムはうなずく。 
 「でもきをつけてください、何か・・・いやな予感がします・・・。」   
 ゆっくりと、奥へ足を運んでいく。 
 森の中に古い人工物があるのはどこか不思議なもので、足元の石畳でなる足音がやけに大きく感じる。 
 いよいよ・・・、という緊張だろうか? 
 お互いが何も言葉を発さない、妙な空気が壊れたのは、本当に一瞬のことだった。   
 突然の爆発が空気を振るわせる。 
 それは'悪魔’の咆哮のように木々をたちどころにざわめかせた。 
 「来るぞ!」 
 「マーキュリー・・・!」 
 「先へは行かせんよ?ワシが使うのだからな・・・。増幅装置は・・・。」  
 
- スレ1-420
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-聖域-
 - 07/10/11 23:01:18
 
 「ヒカリちゃん!サトシ君を連れて行きなさい!早く!」 
 「ヒカリさんいきましょう!」 
 「さあ、早く!」 
 アグノムとエムリットが、ヒカリを促す 
 「え?で、でも!?」 
 「エマさん、サトシは俺が・・」 
 「いえ、あの子なら大丈夫。それよりあいつからユクシーを取り戻さないと・・・。」 
 マーキュリーの腕の装置には、ユクシーが入れられていた。 
 怪我はしていないようだが、薬を飲まされたのか眠っている。 
 「・・・行きましょう!ピカチュウ!アグノム!エムリット!」 
 ヒカリはサトシに、肩を貸した。 
 一瞬重みに身体がきしむ。 
 「ヒカリちゃん!これを!」 
 投げ渡されたのは、通信機だ。 
 しかし届かない・・! 
 「ピカ!」 
 「ピカチュウ!ありがとう!」 
 ピカチュウから通信機を受け取り、サトシを支えなおす。 
 そしてヒカリは、奥へと進んでいった。  
 
- スレ1-421
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-目的-
 - 07/10/11 23:17:10
 
 老兵・・・マーキュリーが静かに空を仰ぐ。 
 それは余裕を見せ付けているようにも見えて、思わずエマは目を眇めた。 
 タケシもすでに、モンスターボールを構えている。 
 「あなたの目的はなんなの・・・?」 
 「目的!?目的か!そんなに知りたくば教えてやろう・・・・」 
 マーキュリーはしわがれた声を響かせながら、さらに大きく天を仰ぎ、葉巻を吸った。 
 「お前達は・・・人の手によって壊されていく世界を見たことがあるか・・・?」 
 「・・・?」 
 「何を言っているという顔だな・・・。まあいいだろう。」 
 マーキュリーが煙を吐き出す。その動作はゆっくりとしていたが、どこか哀しさを孕んでいるようだった。 
 「人は知恵を持つばかりに、それに溺れて森を、川を壊した。海を汚し、ポケモンだけでない、他のいけるものの場所すら奪った。」 
 「同じ生き物なのにそれがどうして許される・・・。ワシの目的はな、人から知恵を奪い、この破壊を止めることだよ」 
 タケシが、エマが驚きの表情を見せる。隠すことも忘れてしまうほどだった。 
 「若いのぉ・・、しかしお前達はポケモンを支配した気になっているのではないか?戦わせ、魅せ、育てて、そんな自分によっているのではないか・・・?」 
 「そんなことは・・・!」 
 「そうね、確かにそうかもしれない。だけどね、人が自分の知恵だけで発展してきたと思っているならそれも傲慢よ」 
 「・・・」 
 「人の生活にはいつもポケモンがついていた。古い神話の時代から。運命共同体のように・・・。」 
 「その運命共同体を、人は滅ぼしかねない。」 
 マーキュリーが杖を投げる。タバコの火を、靴で消す。 
 「ワシはここの装置でユクシーの力を逆流させ、この世界をリセットする・・・。」 
 「狂ってるわ・・・矛盾してる・・・。あなたもポケモントレーナーでしょう?」 
 「そこばかりはお互いさまじゃよ。」 
 タケシが、エマが、マーキュリーがモンスターボールに手をかける。 
 「ウソッキー!頼むぞ!」 
 「ラプラス!お願い!」 
 「フーディン、ゲンガー、行け・・・。」 
 お互いのポケモンが出揃い、場の空気が威圧される。 
 涼しいはずの森の中には重たい空気が渦を巻き、生暖かい熱気があるような錯覚を覚えて、タケシは流れる汗をとめることができなかった。  
 
- スレ1-422
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-共同戦線-
 - 07/10/11 23:28:48
 
 「はぁ・・・!はぁ・・!」 
 止まっていられない・・・。 
 走ることはできない。それでもタケシ達に答えるため、 
 何よりサトシのために、一歩一歩を確実に踏みしめる。 
 肩も、足も重たい。 
 ピカチュウが一緒に運んでくれていることと、アグノムたちが先導してくれていることがただ心強かった。 
 しかし、それでも体力は酷な事に減っていく。 
 (立たなきゃ・・・) 
 通路の壁を支えに、立ち上がろうとする。 
 ずるずると引きずるようにしながら、ゆっくりと進んでいった。 
 「ピカ・・・、ピカピカァ?」 
 「ありがとうね、ピカチュウ。あたしは大丈夫!」 
 精一杯に強気な表情を見せる。 
 それでも疲れを隠し切れないことは分かっていたが、自分に課せられた役割を全うするために歩き続けた。 
 「あっ!」 
 足が縺れて、倒れる。 
 サトシの下敷きになる形で、ヒカリは胸をしたたか打ちつけてしまい、呼吸をしようと必死だった。 
 「まだ・・・だいじょ・・・う・・」 
 気合を入れた瞬間、不意に、上の重みが取り除かれる。 
 「え?」 
 ヒカリが、、何事かと警戒しながらも上を見上げた。 
 「あなた達・・・!」 
 ヒカリは、目線の左記にある意味では縁のある'彼ら’がいることに驚いた 
 「いろいろ考えたけど、ジャリボーイとジャリガールがコンなんじゃ、張り合いがないってね」 
 「俺たちも手伝うぜ~」 
 「早くこの『電電電池君単三型自転車使用』に乗るにゃ」  
 
- スレ1-423
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-共同戦線2-
 - 07/10/11 23:40:17
 
 「ウソッキー!捨て身タックル!」 
 「ラプラス!冷凍ビーム!」 
 「フーディンサイコキネシス。ゲンガーは守る。」 
 「「!」」 
 戦いは劣勢だった。攻撃が相手に届かないのに対し、こちらは確実に消耗している。 
 ウソッキーもラプラスも、息を切らし始めている。 
 「がんばってくれ・・・ヒカリ、ウソッキー」 
 「はっはっ!何を願っても無駄じゃよ。今頃ワシの残りのポケモンがあの娘を追っておる」 
 次第に生まれる焦りはさらに大きくなっていく、それでも今は、ヒカリを信じるしかなかった。     
 「どうしてここに!?」 
 後ろの荷台に載せられたヒカリとサトシ、ピカチュウたちが問う。 
 「ピカチュウのあるところ!」 
 「ロケット団アリってね!」 
 「おみゃーらを追って地下から入って来たのにゃ」 
 道はところどころ荒れている。 
 しかしいつも吹っ飛ばされては荒れ道を戻ってくるロケット団にとって、それを越えるのは造作もないことだった。 
 「わっ!」 
 大きく跳ね上がりそうになるサトシの身体を、しっかりと自分自身でヒカリは押さえつける。 
 いつもは敵の彼らが、今だけは頼もしかった。 
 「ありがとう・・・」 
 「お礼を言ってる暇はないわよ!」 
 「え!?きゃあ!!」 
 突然、横からヘルガーが飛び掛ってくる。 
 なぜこんなところにヘルガーがいるのかは分からないが、ロケット団は見事な運転テクニックでそれを器用によけていった。 
 しかし前方には、4本の腕を自慢げに振り回しながらカイリキーが立ちはだかっている。 
 「いけ!にゃース!」 
 「ニャー!乱れ引っかきニャー!おみゃーらは先に行くニャ!早くジャリボーイを!」 
 ニャースがカイリキーと格闘するのを尻目に、ロケット団のマシンは全速力で通路をかけていった。  
 
- スレ1-437
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-起動-
 - 07/10/17 23:23:45
 
 石畳のしかれた、冷たい空気を孕んだ通路は大きな口をぽっかりとあけ、続いていた。 
 大きな闇が、ぽっかりと口をあけて迫ってくるような錯覚にさえ捕らわれそうになる。 
 「しっかし長いな・・・」 
 「コジロウ、ちょっとスピード上げるわよ」 
 「よっしゃー!」 
 ニャースがカイリキーをひきつけるために降りたことで、マシンのスピードは下がっていた。 
 ギアを切り替えて、立ちこぎをする。 
 「ジャリガール、しっかり捕まってなさいジャリボーイを放すんじゃないわよ!」 
 「え?あ、うん」 
 ムサシが、ハンドル横のボタンを押す。 
 するとマシンの後ろからはブースターが出現し、青白い炎を吹いた。 
 「みたか!これがロケット団の底力なのだ!」 
 追いかけてきたヘルガー達が、再び引き離されていく。 
 「すごい!すごい!」 
 マシンの車輪からは、摩擦による火花が散っていた。 
 スピードをなお上げていくマシンから落ちないよう、サトシをしっかりと抱きしめ、ヒカリは時を待った。 
 やがて口をあけていた暗闇に光が射していく。 
 「あそこです!」 
 アグノムとエムリットが叫ぶ。 
 段差を乗り越え、宙を浮くロケット団のマシンからは、しっかりと祭壇が見えていた。 
 スピンをかけながらブレーキし、止まったときにはオーバーヒートを起こしたかのようにマシンは熱くなっていた。 
 「何やってるの、行くわよ」 
 少しの間ぽかんと口をあけていたヒカリに、ムサシが言う。 
 ヒカリはムサシに手伝ってもらいながら、サトシを装置のある祭壇の上に上げた。 
 「サトシさんから失われているのは、意志の力です。だから装置の中には僕が入ります。」 
 「ヒカリさんは、装置の手の形をしたくぼみに左手を置いてください。」 
 ヒカリがピカチュウと目を合わせ、しっかりとうなずく。 
 そして装置のくぼみに、左手を置いた。  
 
- スレ1-438
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-目覚め-
 - 07/10/17 23:44:01
 
 まばゆい青白い光が辺りを包む。 
 その場にいた全員が、思わず目をかばった。 
 「ちょ、ちょっと~、大丈夫なの!?」 
 「大丈夫です、正しい目的で使えば、決して危害はないはずです」 
 光は生き物のように動きながら、サトシの中へと吸い込まれていく。 
 やがてそれも止むと、辺りは静寂に包まれた。 
 「サトシ・・・?」 
 「ピカピ?」 
 不安そうにヒカリとピカチュウが覗き込む、それに合わせるかのように、ロケット団も覗き込んだ。 
 かすかに、サトシの指先が、眉が、まぶたが動いていく。 
 「ヒカリ・・・、ピカ・・チュウ・・?」 
 「ピカピ!」 
 ピカチュウが、サトシに飛びつく。 
 サトシはそれをうれしそうに抱きとめると、改めて辺りを見回した。 
 何か、重たい感覚から解放された感じがある。 
 「ピカチュウ!ヒカリ!それに。・・、ロケット団?」 
 「助けてくれたの、ここまでつれてきてくれて・・・覚えてないの?やっぱり。」 
 「ああ、でも、誰かに呼ばれているような、誰かが俺の身体をずっと支えてくれていたような・・・。」 
 本当に、記憶はないらしい。 
 それでもなかったであろう意識の中からその感覚を感じてくれていたことが、ヒカリは素直にうれしかった。 
 緊張の糸が切れて、涙が一つ、まぶたから落ちて地面をぬらす。 
 「よかった・・・、お帰り、サトシ」 
 それでもヒカリは、精一杯の顔で笑って見せた。 
 サトシもそれを見て、やわらかく笑う。 
 「なんかさー、あたし達お邪魔虫?」 
 「ニャースもおいてきてるし・・、今日は帰ろうか。」 
 そんなことをぶつぶつといいながら、ロケット団がマシンへと乗り込もうとする。 
 ―ゴゴゴゴゴゴ 
 「ぅおぉおわ!!」 
 「なんだ!?」 
 地面が大きく隆起していく。 
 「地震!?」 
 「ヒカリ!」 
 二人を引き裂こうとするように、間の地面が割れる。 
 「サトシ!」 
 サトシは持ち前の運動神経でゆれて、割れていく地面を飛び越え、ヒカリのいる足場へと映った。 
 「アグノム!アグノム!」 
 祭壇の前で、エムリットが叫んでいる。 
 ヒカリは目を凝らした。 
 「アグノムが・・・!」 
 「え・・?」 
 サトシも同じように目を凝らす。 
 その先にいるアグノムは驚いたことに、身体を赤く発光させ、ぐったりとしていた。    
 
- スレ1-439
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-暴走-
 - 07/10/18 00:08:40
 
 やがて、地面の揺れが収まっていく。 
 ロケット団は腰を抜かしていたが、今はアグノムだった。 
 サトシとヒカリが駆け寄る。 
 「熱っ!」 
 アグノムは全身から高熱を出していた。 
 「エムリット、いったいどうなっちゃったの?」 
 「暴走してる・・・、そんな・・・」 
 「暴走って・・・いったいなんで!」 
 「僕にも分かりません、・・・もしかしたら、ユクシーが弱っていたから・・!」 
 「どういうことだ?」 
 「私達3匹は常に均衡の力を持つようになっているんです。つまり誰かの力が弱まれば、他の二匹の力によって平均化され、残りの力も弱まる」 
 エムリットは、息苦しそうにあえぐアグノムに向き直り、その顔に触れた 
 「もしもユクシーの力が極端に弱っていたのだとすれば、それは知らないうちに私達にも影響が出ていたはず。力が弱まっているときに無理に力を使えば、暴走してしまう・・。」 
 「とめる方法は!?」 
 「わかりません、とにかくユクシーを助けてここを脱出しないと!さあ、こっちです!」   
 突然、空を脅かすように大地が揺れ、タケシ達は立ち尽くすかのように動きを奪われた。 
 「むぅ!あの小娘め、やりおったわ。装置を作動させおった」 
 ひざを尽き、どうにか堪えながら、タケシが叫ぶ。   
 マーキュリーも体勢を立て直そうと、揺れで崩れた柱を支えに立とうとする。 
 「そこまでよ」 
 体勢を立て直す寸前、エマがマーキュリーの腕をつかんで捕縛していた。 
 「観念しなさい。タケシ君、ユクシーを」 
 「は、はい!」 
 タケシがユクシーの檻をあけて、保護する。 
 その身体は熱を持っていて、タオル越しですら熱く感じた。 
 一方のマーキュリーは腕を拘束されているのにも拘らず、余裕の表情だ。 
 マーキュリーがゆっくりと、観念したとでも言うかのように瞑っていた目を開く。 
 「なにを・・・」 
 「ワシはここで捕まるわけにはいかんのだよ」 
 周りの世界が色をなくした。至近距離で食らってしまったせいだろう、目が焼けるようにいたい。 
 「目くらまし!?」 
 タケシとエマの目が回復した頃には、すでにマーキュリーの姿は消え、彼の荷物だけが残っていた。 
 まるでそれは、彼が何か別の思いを秘めたことの現れのようで、エマはヒカリが走っていった通路の、吸い込まれそうな闇を見つめた。  
 
- スレ1-474
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-崩落-
 - 07/11/12 23:09:23
 
 受験でしばらくこれなかった、ゲーム学科に合格決まったので戻ってきた。   
 中途半端な状態での見苦しい放置、申し訳ありませんでした。   
 足場は確実に不安定になっていき、隆起と陥没を繰り返す 
 丁度シーソー状に揺れている石橋の上で、ロケット団は身を寄せ合い震えていた。 
 「ムサシー!コジローウ!」 
 「ニャース!無事だったのか!」 
 3人はお互いを確かめるように抱き合う。ニャースの身体にはいくらか傷があったが、それでも大したことはないようだった。 
 しかし、丁度三人が抱き合っている反対側に、崩落した巨大な岩が落ちてきた。 
 乗ってきたメカは爆発し、その爆風とシーソーを逆側に落とされた反動で3人は吹き飛ばされる。 
 「結局、いつものこれかぁ」 
 「まあいいじゃない、こうしてニャースも戻ってきたし。」 
 「取りあえず、ジャリン子達なら何とかするニャ」 
 「そうだなぁ」 
 「ソーナンス」 
 「「「やな感じぃ~~」」」   
 「ロケット団・・・!・・・ありがとうな。―ヒカリ!こっちだ!」 
 サトシはアグノムをタオルに包んで抱き、ヒカリをその背中に乗せた。 
 「サ、サトシ!?」 
 「足を怪我してるんだろ?みれば分かるって。」 
 「だ、大丈夫だって、サトシも大変じゃ・・・」 
 「ヒカリの大丈夫は当てにならないって!」 
 そんな痴話げんかのような会話をしながら、サトシは出口へと一気に走った。 
 体力と馬鹿力には自身がある、迷ってる間に走り抜けてしまったほうがいい 
 ピカチュウもその身軽さを生かし、足場を渡っていく。 
 ヒカリが感じたその背中は温かく、思った以上に広く頼れるのもだった。 
 足場はもろく、しかし確実に崩れ去っていく。 
 特に出口と祭壇をつなぐ道のそれは激しく、サトシも足をもたつかせ始める。 
 「うおわっ!」 
 そしてとうとう、足場を踏み外した 
 「ヒカリッ!」 
 「サトシ!!」 
 サトシは器用なことに、アグノムと、それを抱える腕だけで二人分の体重を支えていた。 
 「ピカチュウ!アグノムを!」 
 「ピカ!ピカピ!?」 
 「俺なら大丈夫だ!」 
 そういって、腕に力を込める。 
 しかし無常にも、かけた力はもろくなった意思を砕き、サトシとヒカリを奈落へと落とそうとした。  
 
- スレ1-476
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-最後の手-
 - 07/11/12 23:20:57
 
 下げ忘れたびたびすみませぬ・・・   
 「ぐっ・・・!!」 
 サトシは無意識のうちにヒカリをかばうように丸め込んでいた。 
 ―落ちるッ! 
 一気に身体が冷えて、さぁっと血が引いて肌が粟立つのを感じる。 
 「・・・・?」 
 しかし、それ以上の痛みも、浮遊感もなかった。 
 あるのはただ、身体全体を縛る何かの感触。 
 「お前は・・・!」 
 「マーキュリー!」 
 「・・・」 
 サトシとヒカリの身体は縄で縛られ、ひょいと持ち上げるようにまだ安全な地面へ下ろされる 
 ピカチュウが駆け寄ってくるのを抱きとめながらも、二人はマーキュリーに敵視するような視線を送った。 
 「そう睨むな。確かにお前達は目障りじゃが、無益に散る命などあってはならぬ。」 
 「どういうこと・・・?」 
 「人もポケモンも、命を無駄に散らすべきではない。わしは人から知恵を奪おうとは考えたが、命をとろうとまでは思わん」 
 マーキュリーが立ち上がり、崩落する廊下を気にも留めずに壁を探る 
 「まだ手は残っておる。この聖域は調べつくしてある。そこのポケモン、アグノムやエムリットも知らんであろうことがここにはある。」 
 「手・・・?」 
 「この崩落をとめる術じゃ・・・!」 
 マーキュリーは壁を叩いて詮索していたかと思うと、そのうちの一つを引き抜いて中に仕込まれていた鎖を引いた 
 すると不自然に崩落していない壁の一部が押されるかのように押し込まれ、階段になっていく。 
 「最後の鍵はここにある。もはやあの装置は使えないだろう。だとすればここで死ぬのは無駄というもの・・・。」 
 「来い小僧共!この先の鍵を開くにはお前達が必要じゃ!」  
 
- スレ1-477
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-贄-
 - 07/11/12 23:37:28
 
 階段は崩れ落ちた廊下の壁に沿うように彫られていた。 
 日の光も当たらなかった所為か、中は湿気臭くカビやきのこが生えている。 
 「サトシ、今は一人でも大丈夫」 
 「わかった。」 
 ゆっくりとサトシはヒカリを階段におろす。 
 しかし足に痛みが走って、ヒカリは足に力が入らなかった。 
 そのまま体制を崩しそうになるがサトシの腕がそれを支える。 
 「大丈夫か?」 
 「あ、うん大丈夫・・・」 
 滑らないように、とサトシはそのままヒカリの手を引きながら階段を上った。 
 外では崩落の音がやまなかったが、こちらに影響はないらしい。 
 やがて、長い階段を上るとマーキュリーが立ち止まる。 
 「ここじゃ。お前達はここに互いの手を重ねておけ。」 
 見ればその扉には交差する手のひらが彫られていて、古代文字のようなものが書かれていた。 
 何が書かれているのだろう、とサトシが覗き込む 
 「その手の紋章は信頼するもの同士の双方の手が必要になる、二人じゃないと開けんじゃろう。」 
 傍の台座に腰をかけながら、マーキュリーが言った。 
 「この先では二つの石版にまた同時に手を置いてもらう、そしてそれを起動するには贄代わりの人形が必要になる。 
 じゃが人形のことは心配いらん、わしが何とかする。」 
 どこまで信用していいのか分からなかった。 
 しかし今は信じるしかないのだ。 
 どちらも人形のようなものは持ってない。 
 サトシとヒカリは向かい合ってうなずくと、手の文様に合わせて互いの手を重ねておいた。 
 鈍く重い音を立てながら開かれた扉からは光が漏れてわずかに目を焼く。 
 視力が戻った目で見たのは、先ほどの部屋と酷似した部屋だった。 
 まったく崩れていないところと、手のひらを置く石版が二つあるところ以外はほとんど同じだ。 
 「・・・行きなさい。お前達にかかっておる」 
 どこか覚悟を決めたようなそぶりでマーキュリーが言う。 
 二人はお互いにうなずくと、石版の前に立ち、息を合わせた 
 「「せーのっ!」」 
 石版が光、二人の中心に天を劈く光の束が現れる。 
 そしてその中心にいたのは、他でもないマーキュリーだった。  
 
- スレ1-478
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-光-
 - 07/11/12 23:47:13
 
 「「!!?」」 
 驚くサトシ達を尻目に、マーキュリーは静かに告げた 
 ―これでいい。若い命を散らすよりも、ポケモンの命を散らすよりも、老兵が去り行くべきだ・・・ 
 目の前で耐える命はこれ以上見たくはない、最後のわがままだ― 
 「まさか・・・人形って。自分自身のことだったの!?」 
 「そんな・・・!」 
 ―自分勝手は承知じゃ。お前達を利用したといわれても仕方がない。しかしこれしかなかった。 
 せめてお前達のように、誰かのために傷つける物ばかりならばいいのになぁ・・・― 
 「ちょっと待てよ!それじゃあ納得できないよ!!」 
 叫ぶサトシに、マーキュリーは今まで見せなかった優しい老人としての笑顔を向けた。 
 やがて光は老人み聖域全体を包むと 
 一本の細い筋となって消滅した。   
 後には聖域の面影は微塵もなく、ただ巨大なクレーターと落ち着いた様子のアグノム、それを支えるエムリットとピカチュウ、サトシとヒカリが立っていた。 
 「・・・」 
 「サトシ・・・」 
 「・・・行こう、ヒカリ・・・」 
 深く被った帽子から感情を読み取ることはできない、ただわずかに震えている声が、ヒカリが耐えていた涙を決壊させた。 
 二人はただお互いの体温が恋しく、背中合わせに泣いた。  
 
- スレ1-479
 
- 心の前奏曲(プレリュード)-終末-
 - 07/11/13 00:02:49
 
 「サトシ!ヒカリ!」 
 聞きなれた声がして、二人は涙を拭いて立った。 
 タケシたちは更地になった聖域の一点で、二人を見つけたのだ 
 どれくらい泣いたのかは分からない。ただ敵であった筈のマーキュリーの死は優しいものであり、確かな暖かさがあった。 
 自分達のした事はあっていたのだろうか。 
 サトシは涙そのものはこらえていたが、声の震えまでは押さえ切れなかった。 
 「このクレーター・・・ポケモンの暴走を人が止め、人の暴走はポケモンが止める。 
 家の古文書に書かれていたことが実行されたのね・・・。」 
 「それじゃあ、マーキュリーはもしかして・・・」 
 タケシがエマに向き直り、空を仰ぐ。 
 「ええ、自らを犠牲にして他の命を守った。お爺ちゃんらしいわ。」 
 「エマさんのお爺さんだったんですか。」 
 「私の家系は代々この森を守っていたの、私はおじいちゃんに育てられた。だけどいつの間にかこんなことになって・・・。」 
 「昔から自分を犠牲にする人でね、自分はいなくなってもかまわないと思ってる。傷つく人がいるのも知らずにね」 
 「・・・。」 
 タケシはただ黙って聞いていた。 
 たとえばサトシは、ピカチュウやヒカリや、自分がピンチになったときは無茶をしてでも助けようとする。 
 でもそれは、仲間を信頼してこそできることだ。始めはひやりとさせられたが、いつも仲間で協力し合って切り抜けられる。 
 しかしそれが正しいとは限らないのだ。 
 命を落とせば悲しむ人が必ずいる。 
 命を落としては意味のないことだ。 
 「私は大切なものを守ることを間違ってるとは言わない。でも本当に守りたいなら、信頼できる人をたくさん作って、一人よがりにならない様にすべきだと思ってる」 
 「あなた達がそれを忘れずにいてくれれば、せめておじいちゃんも浮かばれるかもしれないわね」 
 サトシとヒカリは、その言葉に耳を傾けながら無言で空を見上げた。 
 目を覚ましたユクシーやアグノムが、それを見つめる。 
 「サトシ・・・、ヒカリ・・・」 
 「行こう、ヒカリ」 
 「うん、大丈夫頼れる仲間ならいるもん」 
 マーキュリーのしたことは間違ったことだ。 
 それでも、彼は何か大切なものを置いていった。 
 ただ静かに見上げた空はひたすらに青く、口をあけていた。   
                             了