特効薬
- スレ1-651
 
- 特効薬
 - 08/06/10 00:51:38
 
 大作の途中だけど、投稿しちゃいます。 
 ヒカリださずに(最後だけ出るけど。)サトヒカやってみました   
 「優勝は、ヒカリさんです!」 
 そのアナウンスを聞いた瞬間、サトシはそれまで魅せられ、外側に出せなかった全てが、 
 まるで火山が噴火でもするかの様に湧き上がってくるのを抑え切れなかった。 
 思わず立ち上がる。 
 「ヒカリがあのハルカに勝った!」 
 経験はハルカのほうが豊富だった、でもヒカリは勝った。 
 この気持ちを、どこへぶつければいいのだろうか。 
 感激でそれ以上の言葉が出ない。 
 歓声こそ上がらなかったが、会場を包む視線は、賞賛、敬意、どこか熱っぽさの残ったそんな雰囲気だ。 
 ヒカリの目には涙がたまっているが、以前立ち寄ったメイドカフェの涙とは違う、嬉し涙なのだ。 
 やがてヒカリはステージに上がり、リボンを受け取ると、リボンを元気よく、最高の笑顔で掲げて見せた。 
 ここからでは声は聞こえない。でも、「だいじょーぶ」と、いつもの決め台詞をいってるのだと、すぐにわかる。 
 「よかったな・・・、ヒカリ。」 
 本当によかった。 
 少し前までは、本当に苦しそうな、迷っているような表情を時折みせていて、その度に胸がずきりと痛んだ。 
 コンテストとジムでは事情が違うかもしれないが、負ける悔しさはサトシ自身もよく知っている。 
 負けを認められずに仲間に当たったこともあった。 
 曇り一つない笑顔でリボンを掲げる今のヒカリを見ていると、本当によかった。と思えた。    
 
- スレ1-652
 
- 特効薬 2
 - 08/06/10 00:52:36
 
 それからのヒカリとハルカは、大勢のテレビ局やコンテストファンに囲まれまさにアイドル状態だった。 
 あちらこちらからマイクを突きつけられ、質問を投げかけられ、とても脱出できそうにはない。 
 助けてやりたいのは山々だが、入り込む隙がない。 
 普段のコンテストはそうでもなかったはずなのだが、やはりミクリカップは事情が違うのだろう。 
 なにせこの大会の主催者は天才と呼ばれるミクリだ。 
 そんな大会で決勝に出たとあれば、やはりそういった的になってしまうのかもしれない。 
 さっきまでのやりきったという二人の表情は影を潜め、今はただマイクに終われあたふたとしているばかりだ。 
 仕方なく、収まるまでサトシはリッシ湖の畔で、風に当たることにした。 
 肌をなでる風はなんとなく、水のにおいを含んでいる気がする。 
 それまでの熱気を冷やしてくれるようで、気持ちがいい。 
 ピカチュウもそれに倣うかのように深呼吸して、一つ伸びをした。 
 そうやって、湖を見つめながら、昨夜見た謎の影のことを思い出す。 
 シンオウに数多く残る神話。 
 それに伝えられているかもしれない、影の正体。 
 「伝説のポケモン、か」 
 やはりホウオウのような存在なのだろうか。 
 伝説のポケモンと呼ばれるポケモンには、何度かあったことがある。 
 フリーザーにもあったし、ルギアにもあった。 
 今回もその類なのだろうか。 
 オーキド博士かシゲルに、こんど聞いてみよう。  
 
- スレ1-653
 
- 特効薬 3
 - 08/06/10 00:53:39
 
 「サトシ」 
 考えに決着がついたのを見計らうように、声がかかる。 
 ヒカリでも、ハルカでもない。 
 「ノゾミか、どうしたんだ?」 
 彼女と一対一で話す機会は、当然だがヒカリほど多いわけではない。 
 しっかりと芯が通っていて、頼りがいのあるノゾミは、ヒカリの憧れでもある。 
 そんな彼女が、こうして一人でボーっと湖を眺めているサトシに声をかけるのは、珍しいことだった。 
 「いや、ヒカリもハルカもまだかかりそうだったからね、あたしも湖の風に当たりに着たんだ。 
  そしたらあんたがいたから、声をかけてみたってわけ」 
 隣、いいかい?と問いかけてきたノゾミに頷いくと、ノゾミは柵に腕を乗せて、サトシと同じように風でたった湖面の波を見つめた。 
 「おしかったね、ブイゼル」 
 「え?あ、ああ。もう少しだったんだけどなぁ。やっぱりコンテストバトルって難しいや。ヒカリもノゾミもハルカもすごいよな」 
 普通のバトルとは違う、コンテストバトルのルール。 
 いくら臨機応変な戦いが得意なサトシでも、コンテストバトルは別だ。 
 トレーナーとコーディネーターとの違いといわれればそれまでだが、やはりあの負けは僅差だっただけに悔しい。 
 「あたしからしたら、あんたの方がすごいよ。」 
 「え?」 
 急に話を吹っかけられて、思わず素っ頓狂な声を上げる。 
 「氷のアクアジェットのことか?あれはヒカリが・・・」 
 「それもだけど、あたしが言ったのはサトシ本人のこと」 
 「俺のこと?」 
 どういうことだろうか。 
 氷のアクアジェットはたしかに成功したが、あれの発案はヒカリだし、ヒカリの練習風景をヒントに成功させたに過ぎない。 
 ここで褒められるべきは、ヒカリのはずだ。 
 その心を知ってかしらずか、ノゾミは続ける。 
 「あんたには感謝してるんだ。ヒカリがあそこまで元気になれたのはあんたのおかげだよ。ありがとう」  
 
- スレ1-654
 
- 特効薬 4
 - 08/06/10 00:55:15
 
 「ヒカリを励ましたのはノゾミだろ?」 
 ますます意味がわからない。 
 ヒカリが元気になれたのは、ノゾミの励ましあってこそだ、自分は何もできなかった。 
 ただ見ているだけしかできなかったのだ。 
 勝て、と彼女に言われたトバリジムも引き分けという結果に終わってしまったし、やはり理由が見つからない。 
 「それはそうだけど、あんただってヒカリの力になったんだよ?知ってる?サトシのことを話すとき、あの子本当に心から笑うんだ。」 
 「ヒカリが?」 
 「そう、夕べもそうだった。サトシってすごいんだよ~ってね。」 
 「でも、俺トバリジム勝てなかったし」 
 「別にいいんじゃない?あたしが睨んだ通り、あんたのジム戦や普段のがんばりがあの子にとって一番の薬になった。 
  あの子本人が、「サトシを見てがんばらなきゃって思ったの」って言ったんだよ」 
 ノゾミは続けた。 
 サトシのことを話すときのヒカリの表情がいきいきとしていること。 
 サトシのおかげで、気を持ち直せたこと。 
 「サトシはきっと、人をひきつける力があるんだね。あんたのがんばりって本当に一直線で、こっちまでやらなきゃって思えてくる。 
  あたしはその様子を見たわけじゃないけど、いつでもサトシは本気だからヒカリもそこから勇気をもらえるんだと思うよ」 
 ミクリに促された、とはいえ、それだけで本気にはなかなかなれるものではない。 
 常に本気で、応援したくなる。 
 演技と呼ぶには荒っぽかったかもしれないが、サトシにはそれを当たり前にしてしまう魅力があるのだ。 
 人やポケモンを引き付け、引っ張り上げる力強さ。それを体現していた。 
 そしてそれに一番影響されているのはヒカリなのだと、ノゾミは思っていた。 
 「でもさ、やっぱり一番すごいのはヒカリ自身だって俺は思うよ。」 
 「?」 
 こんどはノゾミが面食らった顔をする、たしかにヒカリもすごいと思うが、彼の口からその言葉が出るのが意外に思えたのだ 
 「俺さ、シンオウで最初のジム戦、初めは負けちゃったんだ。でもヒカリのおかげで勝てたんだよ。」 
 「ヒカリの・・・?」 
 「ああ、ヒカリがコンテストに使う動きを、俺たちと一緒に練習してくれた。衣装まで作って俺たちを応援してくれた。 
  ナエトルたちもがんばったけどヒカリにも力を貰った。」 
 「そうだったの・・・」 
 ノゾミが笑う。  
 
- スレ1-655
 
- 特効薬 5
 - 08/06/10 00:56:00
 
 「やっぱりあんたたちはすごいね、御互いに影響を与え合って強くなってる。」 
 「御互いに影響を与えて・・・か。そうかもな。」 
 「あたしももっとあんた達のことを見たくなったよ。ヒカリの特効薬があんたなんじゃなくて、御互いが御互いの特効薬なわけだ。」 
 ノゾミは本当に楽しそうに笑った。 
 こんなにもこの二人は近くで影響しあっている。 
 一人で旅をしているノゾミにとって、コーディネーターとトレーナーが影響しあうことはまだ少し不思議だった。 
 でも昨日、サトシのことを話すヒカリの笑顔はそれこそリボンをゲットしたときと同じくらい輝いていた。 
 ヒカリにとってサトシは憧れであり、それ以上になくてはならない存在なのだと、 
 昨日改めてその様子を見て思ったが、サトシも似たようなものだったとは。 
 彼もヒカリに力を貰っている。 
 面白いほどにぴったりと、二人は一つの丸に納まってしまう。 
 そしてその力は、混ざり合ってどんどん勢いを増して大きくなっていくのだ。 
 「サトシ、ヒカリのこと、これからもよろしく頼むよ。」 
 「ああ、言われるまでもないさ。」 
 サトシはぐっとガッツポーズをしてノゾミに言い切る。 
 彼がこの言葉をどう解釈しているのかはわからないが、この分なら、壁が再び現れても壊してしまうのだろう。 
 「・・・たのもしいね。ほんと」 
 ノゾミが再びやわらかく笑う。  
 
- スレ1-656
 
- 特効薬 6
 - 08/06/10 00:56:33
 
 と、その向こうにひらひらとドレスのスカートをなびかせてかけてくるヒカリの姿を見つけて、ノゾミは「あ」と声を上げた。 
 サトシも釣られて振り向く。彼もすぐにヒカリだとわかったようで、駆け寄っていった。 
 ノゾミも少し遅れて追いかける。 
 「サトシ~!こんなところにいたぁ」 
 「ヒカリ!インタビュー終わったのか?」 
 「うん、もう疲れちゃった・・・。あ、ノゾミも一緒なんだぁ!」 
 ぜぇぜぇと、いったんひざを手で支えて立ち止まる。 
 まだドレス姿のところを見ると、インタビューが終わって即サトシを探していたのだろう。 
 「大丈夫?肩で息してるよ?」 
 ノゾミがため息混じりに聞くが、ヒカリは笑顔で顔を上げる。 
 「「大丈夫、大丈夫」」 
 その笑顔をみてサトシもそうだと感じたのか、それともそういうと予感していたのか、見事に二人の声が重なった。 
 一瞬、ぴたりと言葉を切ると一気に静かになって、3人は思わず噴出す。 
 「さ、ヒカリがかえってきたってことはハルカもでしょ?もどろうか」 
 「そうだな」 
 「そういえばサトシ、ノゾミと何してたの?」 
 「内緒。ヒカリの中できっとそのうち答えが出るよ」 
 並んで歩く二人に、一歩先を歩いていたノゾミが割ってはいる。 
 「へ?どういうこと?」 
 「よくわからないけど、俺とヒカリは相性ばっちりってことらしいぜ」 
 「ふぅ~ん、そうなんだぁ。確かにそうかもね!」 
 少し静かになったリッシ湖に日の光が反射している。 
 やたらとそれをまぶしく思いながらも、3人はタケシとハルカがまっているであろう待機室へと急いだ。 
             了