リボンの思い出

  • スレ1-691
  • リボンの思い出①
  • 08/06/23 00:39:35
長編乙です(´・ω・)_旦"
割り込んで申し訳ないが、ちょっとおつまみでも短編投下

【その1】
森の中を半ば迷子で彷徨っていたサトシ達が、漸く薄霧を抜けた先に
見つけたのは1軒の大きな屋敷だった。

屋敷には、初老の夫婦が住んでいて、穏やかな表情のその2人は3人を
快諾で泊まらせてくれた上、温かな御馳走や飲み物でもてなしてくれた。

「このお家、ポケモン達が沢山居るんですね」
屋敷の至る所に勝手気ままに歩き回るポケモン達に、ヒカリを始め
サトシもタケシも周囲走り回るポケモン達を見て笑っている。

「私も主人も子供の頃から、ポケモン達が大好きだったのよ」
優しい表情で微笑む夫人に、嬉しそうに笑い返す3人。

「あら‥‥」
「どうかしたんですか?」
膝に眠るムックルを撫でていた夫人の不意の声。

「この子に付けておいたリボンが無いの。 また裏庭で遊んでいる時に
何処かで外れて落としてしまったようね」
「あ、じゃあ、明日になったらあたし達で探してきますっ!」
「えっ? でも、裏庭は広いし大変よ」
「ダイジョーブっ! ね、サトシっ!」
「ああっ! 泊めてもらったし御飯のお礼に何かしたいしな」
「ありがとう。 じゃあ、明日お天気になったらお願いしようかしら」
「「はいっ!」」
元気な返事に微笑み返す夫人。
その隣に立つ主人も、同じ様な穏やかな笑みで3人を見詰めていた。

  • スレ1-692
  • リボンの思い出②
  • 08/06/23 00:43:51
翌朝、サトシとヒカリ、それに2人のポケモン達が一斉に飛び出し
裏庭へと駆け出していく。

タケシは、夫人のミミロルが風邪気味なので看病に残ったので、
代わりにとグレッグルとウソッキーも裏庭探索隊に同行だ。

朝霧が降りている広大な裏庭は、何処か幻想的な雰囲気で一瞬
とはいえサトシとヒカリにその光景を見惚れさせた。

「ピカピ?」
「ポチャ?」
「あ、そうね。 リボンを探さなきゃ」
「そうだった。 行こうぜ、ヒカリっ!」
「うんっ!」
駆け出すサトシとヒカリ、それに続くポケモン達を窓から見詰める夫人。

「大丈夫ですよ、サトシとヒカリなら」
ミミロルに薬を作りながら笑うタケシの声に振り返り頷く。

「ん?」
ふと、顔を上げたタケシが暖炉の上に並べられた沢山のリボンや
バッジが飾られているのに気付いた。

其処には、いろんな地方のだろうコンテストリボンや、タケシの
実家のニビジムのバッジを始めとした各リーグバッジ等、此処の
夫婦のこれまでの栄光だろう多くの証が今も輝きを保っていた。

「凄いですね。 自分の家もジムをやっているんですが、その
バッジもある」
「ありがとう。 私は若い時にトップコーディネーターを、
主人はポケモンマスターを目指していたのよ。 ニビジムの
バッジは、主人が最初に旅立った時に貰った思い出のバッジなのよ」
「そうなんですか。 ‥‥‥あれ? 自分の家がニビジムって
言いましたっけ?」
感心と驚きでバッジとリボンを見ていたタケシが、不意に?顔で振り返る。

其処には、意味深ながら優し気に微笑む夫婦の姿。
その夫人の胸元には、一際年季の入ったモスグリーンのリボンが付いていた。

  • スレ1-693
  • リボンの思い出③
  • 08/06/23 00:49:25
一方、裏庭探索隊。

「サトシ~、リボンあった?」
「こっちには無いみたいだな。 ピカチュウ、そっちは?」
「ピ~カ~」
「ポチャ~」
「薄いピンクのリボンだって言ったよな? だったら、これだけの
緑の中なら直ぐに解ると思ったんだけどな~」
屋敷の裏庭は夫人の言葉通り広大で、夫婦の説明では保護したり
野性のポケモン達の遊び場になっているらしい。

「‥‥そうだ。 ねえ、サトシ。 リボン無くしたのって、ムックルよね?」
「あ、ああ」
「ムックルなら、地面より樹に止まる方が多いんじゃないかしら」
「‥‥あ。 そうだっ! じゃあ、もしかして樹に止まった時に」
「引っ掛かって落ちたってのも」
糸口に顔を見合わせたサトシとヒカリが頷き合い、同時に周囲の樹に
視線を走らせる。

「ピカチュウ、みんなっ! 1本ずつ樹に登ってリボンを探してくれっ!」
「ピッカーっ!」
ピカチュウの号令に、ポッチャマを始めポケモン達が一斉にそれぞれ
樹に走っていく。

「よしっ! オレもっ!」
「気をつけてね、サトシっ!」
「大丈夫、大丈夫!! ヒカリはそこでリボンが落ちてこないか見ててくれよな」
「うんっ!」
エイパム並の身軽さで樹の1本に登っていくサトシに、下から見上げる
ヒカリが薄れていく朝霧の隙間から洩れる木漏れ日に目を細める。

「‥‥‥あ、あったっ!!」
「ほんと、サトシっ!?」
「ああっ! 木の枝の中に引っ掛かっている。 ヒカリの言う通りだったぜっ!」
「良かったっ! おばさん、喜んでくれるわね」
2人の会話に周囲から集まってくるピカチュウ達。

「取れそう? サトシ」
「枝の先の方なんだ。 もう少し‥‥」
「気をつけてね」
「うわっ!?」
「サトシっ!?」
少しずつ強くなる日差しに額に手を翳しながら上を見上げるヒカリの目の前で
樹の枝が軋んだ音をたてたと思った瞬間、折れる音をへと変わった。

  • スレ1-694
  • リボンの思い出④
  • 08/06/23 00:53:11
「サトシっ!!」
慌てて駆け寄るヒカリとピカチュウ達。

そして、サトシが落ちた音とその衝撃で舞い上がった草が落ちていく中、
真下に滑り込んでくれたブイゼル、エイパム、ウソッキーの上で座り込む
サトシとヒカリが居た。

「だ、大丈夫、サトシっ!?」
「ヒカリこそ落ちてるとこにくるなんて危ないじゃないかっ!」
「だってっ!」
「ピカピっ!」
「ポチャっ!」
思わず言い合いになろうとしたところに、ピカチュウとポッチャマの仲裁。

「あ、ご、ごめん」
「あたしこそ。 でも、サトシに怪我が無いでよかった」
「ブイゼル、エイパム、ウソッキー、ありがとうな」
3匹に礼を言い立ち上がるサトシが、ヒカリの手を引いて立たせる。

「‥‥‥」
お互いに顔を見合わせるサトシとヒカリ。
その顔が同時に笑い出す。

「おばさんに早くリボン渡してあげましょうっ!」
「ああっ! 行こうぜっ!」
笑って頷くサトシが、ヒカリの手を握って駆け出す。

何時の間にか朝霧は晴れて、丘の上の屋敷の屋根ではムックル達が
日向ぼっこをしているのが見えていた。


その日の昼過ぎ。

「お世話になりました」
「また何処かで逢いましょうね」
旅立つ3人を、夫婦が門まで見送ってくれた。

「リボン見付かってよかったな」
「うんっ! いいな~。 あたしもあんな大人の女性になりたいな~」
「‥‥‥‥‥」
再び森の中の道へと戻り、其処で深い溜息をつくタケシ。

「タケシ?」
「どうしたの?」
「いや~。 俺もはっきり解ったって訳じゃないんだけどな」
背後を振り返るタケシ。

つられて振り返るサトシとヒカリだが、森の樹々で屋敷はもう見えない。

「何かあったのか?」
「どうしちゃったの?」
何やら不可解な顔のタケシの表情に、?顔を見合わせるサトシとヒカリ。



そんな彼等の歩く森の道の奥で、森の護り神であるセレビィを祭る
小さな祠の周辺から微かな鈴のような音が響いていた。