サトヒカ運動会
- スレ1-39
 
- サトヒカ運動会
 - 07/09/05 21:21:09
 
 旅を続けるサトシとヒカリ、そしてタケシ。 
 辺りの木々は各々に紅く染まり、まさに秋まっただ中だ。 
 「ねぇタケシ、次の町はまだ~?」 
 先頭を歩くヒカリが振り返りながらタケシに尋ねた。 
 いつもならば、それはサトシが口にする台詞だった。 
 「そんなに慌てるなよヒカリ。」 
 両腕を後頭部に回しながらサトシは言った。 
 これも普段はヒカリがサトシをなだめる言葉だ。 
 「ピカピィカ。」 
 ピカチュウもサトシと同じく、終始おっとりした感じだ。 
 「だって、早くしないと次のコンテスト始まっちゃうんだもんっ!」 
 そう言ってヒカリはほっぺたをぷぅと膨らませた。 
 ノゾミを始めとする多くのライバル。 
 彼女たちに遅れを取るまいと、ヒカリは意気込んでいた。 
 「ん~、もうすぐオータムタウンに着くはずだぞ。」 
 広げた地図を見ながらタケシはヒカリにそう告げた。 
 ここからそう遠くない位置に次の目的地オータムタウンはあった。 
 ヒカリは再び前を向いて歩き始めた。 
 「オータムタウンかぁ…、どんな町かな~。」 
 ドンッ 
 何かの始まりを告げる花火が、たった今秋空に打ち上げられた。 
 「え!?何の花火!?」 
 驚いたヒカリは思わず辺りを見回した。 
 が、もちろん何かが見つかるはずはない。 
 「あれはオータムタウンのある辺りだ!」 
 再び地図を開いてタケシは言った。 
 「よし、行ってみようぜ!」 
 そう言ってサトシは走り出した。 
 サトシが走り出すと、それを追う形でヒカリ、少し出遅れてタケシが続いた。  
 
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- サトヒカ運動会
 - 07/09/06 07:28:09
 
 しばらく走っていると、サトシ達は開けた場所に出た。 
 小高い丘になっていたため、辺りの様子が一望できた。 
 「あれは…?」 
 入念に整備された広大なグラウンドが、サトシ達の視界に広がった。 
 「広い運動場……。」 
 そのあまりの広さにヒカリは思わず息を飲んだ。 
 そのグラウンドは、ヒカリが通っていた学校のそれの広さの比ではない。 
 「このガイドによると、オータムタウンでは年に一度、大運動会が開催されてるみたいだ。」 
 先程見ていた地図の、今度は裏側を見ながらタケシは言った。 
 季節は秋、天気は晴れ。丁度この日が、大運動会の開催日だった。 
 「大運動会かぁ!」 
 普段の行動から見て取れるように、サトシは体力に自信があった。 
 これから繰り広げられる様々な競技に、サトシは思いを馳せた。 
 「あたしも出た~い!」 
 元気少女のヒカリも体力には自信があった。 
 応援の選択肢も存在するため、ヒカリにとっては二度おいしい。 
 「おっ、一般の人の参加は自由だぞ!」 
 サトシとヒカリにとって、最も重要な部分をタケシは付け足した。 
 「ホントか!?」 
 「どうすればいいの!?」 
 それを聞いたサトシとヒカリは、間髪を入れずにタケシに尋ねた。   
 「受付を済ませれば誰でも出場できるぞ!」 
 二人にそう告げて、タケシはガイドをたたみ、リュックにしまった。 
 「よ~し、オレたちも出場しようぜ!」 
 サトシは拳を握り締め、ファイティングポーズを決めた。 
 「賛成~!」 
 ヒカリも右腕をぴんと伸ばし、サトシに同意した。   
 こうして、サトシとヒカリはオータムタウン大運動会に出場する事になった。  
 
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- サトヒカ運動会
 - 07/09/06 19:42:43
 
 サトシ達は、オータムタウンのポケモンセンターへと足を進めた。 
 オータムタウンのポケモンセンターは町の中央に位置し、その後ろに先程見えたグラウンドが広がっている。 
 「ポケモンセンターが主催の運動会なんだ…。」 
 ポケモンセンターのロビーに入ると、ヒカリは不意にこんな言葉をもらした。 
 「普段は、あそこでポケモンを預かってくれてるんだぜ?」 
 ヒカリの顔をのぞき込みながらサトシはそう言った。 
 「へぇ~。」 
 ヒカリのトーンの高い声が、ロビーにこだました。 
 広いロビーだが、サトシ達以外にトレーナーの姿は無かった。   
 「こんにちは、ようこそポケモンセンターへ!」 
 ………   
 しばらく間が空いた。 
 何かを忘れているような…、そんな気がしてならない。 
 この気持ちの原因に、サトシとヒカリは気がついた。 
 「そう言えば……。」 
 「タケシは……?」 
 二人が振り向くと、入り口入ってすぐの所にタケシが倒れている。 
 先手必勝、時すでに遅し。グレッグルは満面の笑み(?)でこちらを見つめている。 
 「キッ!」 
 再び三人の元に沈黙が訪れた…。     
 「…オレたち、運動会に出場したいんですけど。」 
 気を取り直して、サトシがフロントのジョーイに申し出た。 
 「でしたら、こちらのエントリー用紙にお名前と必要事項をご記入ください。」 
 そう言って、ジョーイは二人にエントリー用紙を差し出した。 
 特に変わったことはない普通のエントリー用紙だ。 
 「「ありがとうございます。」」 
 二人は用紙を受け取ると、ペン立てのあるコーナーへと流れていった。 
 ペンを取り、名前・住所・パートナーポケモン等を記入し、記入は完了だ。 
 「タケシはどうしよっか…?」 
 ヒカリは、入り口の方を振り返りながらサトシに尋ねた。 
 グレッグルが、タケシの頬を引っ張っては放し、引っ張っては放し遊んでいる。 
 「あれじゃあ、仕方ないな…。」 
 本人の意思とは無関係に、タケシは不参加となった。 
 「な…ぜだ……、グレッ……グル………。」 
 相変わらず、グレッグルはタケシの頬を引っ張ったり放したりしている…。  
 
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- サトヒカ運動会
 - 07/09/08 06:04:01
 
 開会式を終えたサトシとヒカリは、木陰にシートを敷き、それに腰を下ろしていた。 
 二人は、それぞれ上はお揃いの白いTシャツと、サトシはブルーの、ヒカリはピンクのクォーターパンツに身を包んでいた。 
 「第一種目は、100m走ね。」 
 ヒカリは、受付でエントリー用紙と引き替えに貰ったプログラムを眺めた。 
 面白そうな競技は沢山あるが、何よりも最初は徒競走だ。 
 「よ~し、燃えてきたぜ!」 
 そう言って、サトシは右の拳を握り締めた。 
 いかにも、やる気満々といった様子だ。 
 「がんばってね、応援するから!」 
 「あぁ、頼むぜヒカリ!」 
 「あんた達も来てたんだ。」 
 聞き覚えのある声が、サトシとヒカリの耳に届いた。 
 二人は声の主の方へと目を向けた。 
 「「ノゾミ!」」 
 そこにいたのは、ヒカリと同じポケモンコーディネーターのノゾミだった。 
 思わぬ場所での再会に、サトシとヒカリは、思わず立ち上がった。 
 「あなたも来てたのね!?」 
 ヒカリは、嬉しさのあまり少し早口だった。 
 「この町のポケモンセンターに寄ったら、たまたまね。」 
 ノゾミは淡々とした様子だったが、言葉には暖かいものがあった。 
 一見クールだが、“いい奴”が醸し出す独特の雰囲気だ。 
 「ノゾミも、競技に出るのか?」 
 サトシは、確認を取るようにノゾミに尋ねた。 
 「あたしは、観戦がメインかな。競技からコンテストに通じる動きを見つけるんだ。」 
 それは、最もノゾミらしいと答えだとサトシとヒカリは思った。 
 「そうか。」 
 サトシは、納得した様子で言った。 
 「それじゃ、あたしはもう行くね。」 
 そう告げて、ノゾミは二人の元を後にした。 
 「また、後でね~。」 
 ヒカリがそう言うと、ノゾミの後ろ姿は右手を挙げた。   
 「さてと…オレも、そろそろ行くか。」 
 サトシは、一歩前に進んだ。 
 「サトシ。」 
 ヒカリがサトシを呼び止めた。 
 振り返ると、ヒカリがサトシの方に掌を差し出していた。 
 「がんばってね!」 
 「あぁ!」 
 サトシは自らの手でヒカリの掌を叩いた。  
 
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- サトヒカ運動会
 - 07/09/09 08:35:17
 
 会場内に、第一種目開始を告げるアナウンスが流れた。 
 ヒカリは、立ち膝でリュックの中のある物を探していた。 
 「あったあった!ふふ…、これで……!」 
 一人静かに、ヒカリは微笑んだ。   
 サトシは、ヒカリの元を離れ入場門にいた。 
 「オレは、第五レースか…。よーし!」 
 サトシは、自ら頬を叩いて気合いを入れた。 
 ヒカリが応援している、負けるわけにはいかない。 
 「行くぞ!」   
 『選手入場。』   
 アナウンスの声と共に、大勢の選手が入場してきた。 
 これだけの選手の中でも、トレードマークの赤い帽子が一際目を引いた。 
 そのためヒカリは、サトシの姿をすぐに見つけることができた。 
 「あ、いたいた!」 
 一瞬でサトシを見つけられたことが、ヒカリはとても嬉しかった。 
 「見ててよサトシ、絶対一位にしてあげるんだから!」 
 そう言うとヒカリは、クスクスと笑った。 
 ヒカリには、サトシを絶対勝たせるための秘策があった。 
 「ポッチャマ、準備はいい!?」 
 ヒカリは、足下のポッチャマに目を向けた。 
 「ポチャ!」 
 そう言うとポッチャマは、そばにあった椅子に飛び乗りぽんと胸を叩いた。 
 「ポチャポーチャ!」 
 ポッチャマは、だいじょーぶ!とヒカリのヒカリの口癖を真似たようだ。 
 「さぁ、始まるわよ…!」 
 ヒカリは、視線をポッチャマからトラックに戻した。 
 いよいよ、サトシに順番が回ってきた。 
 (サトシ…、絶対だいじょーぶだからね……!) 
 ヒカリは、祈るようにスタートラインに着いたサトシを一心に見つめた。  
 
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- サトヒカの運動会
 - 08/01/01 23:59:11
 
 スタートラインに手を付き、クラウチングスタートの体勢になった。 
 サトシは目線を横にずらし、競走相手達の顔を見やった。 
 『よし…、スタートから飛ばして一気にゴールだ!』 
 再びサトシは前を向き、目の前のコースをじっと見つめる。 
 静かに風が流れた。   
 パァン   
 極限まで高められた緊張が、一瞬にして解き放たれた。 
 と同時に、サトシは右足でグラウンドを強く蹴りつけた。 
 「!!」 
 次の瞬間サトシは、自分が氷の上にいるような錯覚に陥った。 
 長旅を共にして来たスニーカーは、サトシの脚力を支えきれなかった。 
 「ぐっ…!」 
 左足で体勢を立て直し、サトシはどうにかスタートを切ることができた。だが既に先頭ランナーは第一コーナーに差し掛かっていた。   
 『しまった…、出遅れた!』       
 「あっ!」 
 その光景は、観客席から見守るヒカリの目にも飛び込んだ。 
 あまりに絶望的なその光景に、ヒカリは一瞬目を背けた。 
 最後尾を走り続けるサトシの姿を、ヒカリは容易に想像できた。 
 誰もがヒカリと同じくサトシの姿を脳裏に思い描くことができた。 
 『でも…。』 
 ヒカリは目線を再びサトシに戻し、まっすぐに彼を見つめた。 
 「負けないで…サトシ、だいじょーぶ!」 
 ヒカリはきつく、震えるほど全力で両手を握りしめた。 
 涙がこぼれそうな程、ヒカリの瞳は熱を持っていた。 
 『負けないで…サトシ…負けないで…。』 
 ヒカリは何度も何度も繰り返し心の中でそう呟いた。  
 
- スレ1-524
 
- サトヒカの運動会
 - 08/01/06 19:05:31
 
   「やっちゃったねぇ…。」 
 背後からノゾミが缶ジュースを片手にヒカリと並んだ。 
 例にもれず、ノゾミも大いに落胆した様子だった。 
 「ポチャ…。」 
 ポッチャマも心配そうにヒカリを見上げる。 
 その悲壮な表情は正に、人間以上に人間らしいと言えるものだった。   
 しばらくヒカリは無言で立ち尽くしていたが、再びまっすぐ前を向いた。 
 「…だいじょーぶ!サトシは絶対だいじょーぶ!」 
 ヒカリは声を発した。 
 先程までの様子とは打って変わり、活気に満ちた明るい声だ。 
 「…そうだね大丈夫、大丈夫。」 
 ノゾミはヒカリの肩をぽんと叩いて、手にしたスポーツドリンクを口に運んだ。 
 一息ついて、ノゾミもサトシをまっすぐ見つめた。 
 「ポチャポチャ!」 
 ポッチャマも元気いっぱいだと言わんばかりにファイティングポーズを決めた。 
 「ところでヒカリ、何だいその格好?」 
 「あっ、これはね…。」     
 『よし…、あと二人!』 
 持ち前の運動能力で、三人の走者を見事に追い抜いたサトシ。 
 レースも終盤、最終コーナーに差し掛かろうとしていた。 
 『!あれは…。』 
 サトシの視界に一際目を引く“あるもの”が飛び込んだ。  
 
- スレ1-525
 
- サトヒカの運動会
 - 08/01/06 21:32:09
 
 「サトシッ!ファイトッ!絶対絶対だいじょーぶっ!」 
 「ポチャポチャ~!」 
 そこにはチアガールのコスチュームに身を包んだヒカリと、学ランを着たポッチャマの姿があった。 
 そのコスチュームはかつてクロガネジムで披露したそれとは異なり、青を基調とした別のデザインのものだ。 
 ポッチャマも額に鉢巻きをして、自分の数倍もある大きな旗を振り回していた。 
 「行っけぇ~っ!サトシ~ッ!!」 
 ヒカリは手に持ったポンポンをサトシに向けて思いっきり振りかざした。     
 振りかざした手はサトシと一直線上にあり、サトシとヒカリが目を合わせる形となった。 
 『ヒカリがオレのために全力で…、こうなったらもう…!』 
 自分の為に一生懸命になってくれるヒカリの存在がたまらなく嬉しかった。 
 走り抜けながらサトシは一瞬目線を降ろし、右足にタメを作った。 
 「もえるしかないぜ!!」 
 再び前を向いたサトシの眼は、炎を宿したかのように熱を帯びていた。 
 そして右足が地に着いた次の瞬間、サトシは猛烈な勢いでゴールまで走り抜けていた。   
 「!」 
 ヒカリはしばらくその瞳に魅せつけられていた。 
 純粋でまっすぐな、サトシの心の本質に触れたような気がした。 
 『あれがサトシ…。』     
 「どうしたんだいヒカリ?顔真っ赤だよ?」 
 ノゾミの言葉に、ヒカリははっと我に返った。 
 サトシの情熱に打たれ、ヒカリはただ立ち尽くすのみだった。 
 「ううん…なんでもない、だいじょーぶだいじょーぶ。」 
 ヒカリは深呼吸して軽く心を落ち着かせた。 
 今の気持ちは一体何だったのだろう?   
 ───ヒカリの疑問が消えるのは大分後になってからのことだ。  
 
- スレ1-527
 
- サトヒカの運動会(番外編)
 - 08/01/06 23:07:36
 
 会場には多くの露店が出店している為、こちらも大賑わいだ。 
 中でも特に人気を集めているのが、この射的である。   
 「一回…、お願いします。」 
 落ち着いた雰囲気の少年が店主に小銭を差し出す。 
 言うまでもなく、彼はシンジだ。 
 「あいよ、弾は6発ね。」 
 シンジは店主の言葉を受け流した。   
 コンッ   
 コルクの弾が小さなお菓子の箱を撃ち落とす。 
 「はい、おめでとう。」 
 店主は棚の後ろに落ちた景品をシンジに手渡した。 
 「ありがとうございます。」   
 その後も、シンジは小さなお菓子だけを撃ち落としてどこかへ去っていった。   
 「使える…!」