タケシの受難
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- タケシの受難
- 07/09/06 00:08:50
>>43と
>>44が持ってきてくれたネタでカキコ
お二人ともありがとう
肌を噛む小虫の牙は決して気持ちのいいものではなく、下流に行くにつれて土は湿り、湿原地帯になっていた。
水気が多すぎるためか草はかれているものも少なくない。
それでも、所々休めそうな場所はある。
大型のポケモンが使っていたであろう横穴で、サトシ一行は休んでいた。
昼間とはいえ湿地帯は暗い。
ぬかるみは必要以上に体力を奪うため、旅に慣れていないヒカリは真っ先にダウンした。
タケシは昼食の準備のために、薪を探しに行っている。
サトシはヒカリと、露出した岩肌の上に腰掛けて休んでいた。
「ん?」
ふと、近くにまとめてある荷物から一冊の本が出ているのに、サトシは気がついた
拾い上げてみればそれはヒカリのもので、丁寧な装飾の表紙と、ボタンでつないであるのが印象的な本だ。
「ヒカリ、これなんだ?」
サトシが中身を見ようと、ボタンに手をかける。
「あっ!ダ、ダメ!」
あわてて駆け寄ってきたヒカリが、水滴を受けていた岩で滑ってサトシにダイブする。
「おわっ!」
かわせばヒカリが顔面から激突してしまう、とサトシはよけることができなかった。
「あっ、ご、ごめん!大丈夫?」
「痛っー」
頭を軽く抑えながら、起き上がる。
「なあ、その本何が書いてあるんだ?」
「ダメ!絶対見ちゃダメ!」
明らかに様子がおかしい、とサトシは感じた
本を必死に抱きかかえているヒカリは、顔を赤くし、頑として見せるのを拒む
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- 07/09/06 00:20:41
・・・気になる・・・
そんないたずら心が芽生えて、いつの間にか洞窟内で追いかけっこになっていた。
ヒカリもまんざらではないようで、ちょっとしたお遊びのような、そんな雰囲気だった
しかしそうしているうちに、足が絡まって転んでしまった。
「「ぎゃ!」」
うまく受身を取ったのか、二人とも怪我はなかった。
しかし、ヒカリの本は水溜りに落ちてぐっしょりとぬれている。
それを目にした瞬間、ヒカリの目に明らかな怒気が満ちた。
「んもうっ!サトシ気をつけてよ!」
あ~あ~、と心底残念そうに本を持ち上げる。
あいにく本からは水滴が滴っていて、乾かすまで本の中身が持つかは微妙だった
「あ・・・、ごめん。」
正直、サトシはここまでヒカリが怒るとは思っていなかった。
「別にいいです~」
そうはいっているものの、明らかに言葉には怒気をはらんでいて、機嫌は直りそうにもない
良くわからないが、あの本がヒカリにとって大事なものだということはサトシにも理解できた。
しばらく、話しづらい沈黙の時間が続く。
ピカチュウも息苦しい空気に耐えられなくなったのか、いつの間にか外でタケシを待っている。
「なあ、ヒカリ。」
「・・・」
はぁ。と溜息がサトシの口から漏れた。
こんなことは今までで始めてで、どういったらいいのかわからないのだ。
しかし、その沈黙の時間も長くは続かなかった。
「ピカピ!ピカチュウ!」
「ウッソ!ウソッキ!!」
張ったような空気を裂いたのは、ピカチュウとタケシのうウソッキーだった
- スレ1-53
- タケシの受難
- 07/09/06 00:30:53
「どうしたんだ?ピカチュウ」
ウソッキーを見たとたん、タケシが帰ってきたのかと思ったが、どうやら違うらしい
二匹の様子は明らかにおかしく、ウソッキーはピカチュウ以上に必死だ
「もしかして、タケシに何かあったのか?」
「ウソ!ウソッキ!」
そのとおりだと、ウソッキーは大きくうなづいた。
遠巻きに少し不安げに見ていたヒカリも、事態を理解して二匹に駆け寄る
ウソッキーが、苦手なはずの水溜りすらものともせず走り出す。
それを追ってピカチュウとサトシ、ヒカリと続く。
タケシを追っている間も、ヒカリはサトシに目をあわせようとはしなかった。
しかしまだ怒っているのではない、あんなことをいってあんな態度をとってしまった以上、目はあわせづらかった。
サトシが気遣って時々こちらを見ているのもわかるのに、自分はそれに答えることができずにいる。
確かにあの本の中身は大切なものだったが、サトシは謝ってくれたし、自分にも落ち度はある。
(ダメだ・・!今はそんなこと考えてる場合じゃ・・・!)
余計な思考を取っ払うために、頭を振る。
今最優先するべきなのはタケシだと言い聞かせて。
- スレ1-55
- タケシの受難
- 07/09/06 00:43:42
そのうち、ウソッキーがぴたりと足を止めた。
ちょうど泥が深くえぐれて、穴のようになった場所を必死でさしている。
近寄ってみれば、穴の中には一匹のコダックと足をくじいたタケシがいた。
「タケシ!」
「サトシ!ヒカリも!」
「大丈夫か!?」
「ああ、先にコダックを出してやってくれ!傷が膿んで、このままだとまずい!」
「わかった!」
ヒカリは、動くことができなかった。
動かなければならないことはわかっているが、どうしてもさっきのことが頭に引っかかってしまうのだ。
「大丈夫だコダック、もう安心していいからな。」
タケシのそんな声が聞こえる。
たとえ自分が怪我をしても、ポケモンのことを優先するあたりは、サトシと似ているかもしれない。
コダックが引き上げられ、タケシが引き上げるためのロープをつかんだそのときだった。
引き上げようとしたサトシの足がもつれて、滑ってしまったのだ。
あわててウソッキーとピカチュウが支えにはいる!コダックも!
それでも、沼地の泥はずぶずぶと穴へとサトシを引き寄せていく、あの体制で落ちればサトシも足をくじいてしまう。
何より人が自力で出られないほど深い穴だ、ぬかるんでいるせいで足をくじいた状態ではとても抜けられない。
「サトシ!!」
いつの間にか体が動いていた。
足をつかんでいるポケモンたちの邪魔にならないように、胴体にしがみついて引き上げる。
「ヒカリ!?よっしゃ!」
サトシも、ヒカリが加勢に加わって熱が入った。
腕に力を込めて、足を深く泥に食い込ませる。
穴へ落ちる前に、引き上げてしまえといわんばかりに。
「「せーの!!!」」
ぐっと、二人の息が合ったロープが持ち上げられた
- スレ1-56
- タケシの受難
- 07/09/06 00:53:01
タケシは泥だらけだったが、軽く足をくじいただけで大きな怪我はない。
泥に体力を奪われ、肩で息をする二人にタケシが礼を言う。
話せる元気もある、大丈夫そうでよかったと、サトシをちらりと見てみる
すると、サトシも同じことを考えていたのか、ヒカリと目があった
少し、サトシが気まずそうな顔をする。
服も顔も、泥だらけで、少し自信なさげにしぼんだ様子はいつものサトシらしくなく、ヒカリはつい噴出してしまった。
「な、なんだよっ!」
ポッポが豆鉄砲を食らったような顔とはこのことだろう、面食らったサトシが少し照れたように講義する
「ご、ごめん!だってさとしってば・・・!泥・・!」
「んな!それを言うならヒカリだって・・・!」
それを聞いてヒカリは自分の顔を鏡で見てみた
サトシほどじゃあないが、髪も顔も服も、泥まみれである。
ぽかん、と鏡を見ていると、今度はサトシに笑われた。
「なによもー」
怒るに怒れない。
何より同じように笑っていられることが気持ちよくて、さっきのことなどなぜ喧嘩していたのか忘れかけたぐらいだ。
コダックの治療をしながらも、二人の様子を見ていたタケシが、なんともいえない顔で二人を見つめている
- スレ1-58
- タケシの受難
- 07/09/06 00:59:51
しばらく笑いあって、サトシと、ヒカリはタケシを支え、ウソッキーがコダックを運んで洞窟へと戻った。
コダックの傷は生んで、そのままにしていれば熱が続いていただろうが、タケシの調合した解毒薬で落ち着いている様子だった。
本来はポケモンセンターに任せるべきなのだろうが、この近くにはなかったのだ。
「そういえばヒカリ、答えたくなかったら答えなくていいんだけどさ」
「ん?何?サトシ」
「あの本の中身って・・・。」
「ああ、あれ?」
あの本の中には、これまでの旅で感じたことを、ポケッチのアプリでとった小さな写真とともに記録していた。
確かに日記は汚れてしまったけれども、思い出はなくなるわけではない。
初めてのたびで、いろいろな人やポケモンに出会って、その感動をいつまでも心にとどめておきたいとサトシに出会ってから思いつき出始めたものだ。
なんとなく見せるのが恥ずかしくて拒んでしまったが、もともとはその日記をみんなで見てあーだこーだと笑うのもいいかもしれないと、そう思っていた。
「そっか・・、ごめんな。汚しちゃって」
「いいよ。大丈夫!ただし・・・」
「へ?」
「サトシの今までの旅の話も聞かせてね、こっちはちゃんと言ったんだから」
要するに、不公平だといいたいらしい。
別に減るものじゃないし、いいかとサトシは話した。
旅の思いでも、出会った人のことも、くべた火を囲んで、笑いながら。
- スレ1-59
- タケシの受難
- 07/09/06 01:06:06
オマケ
「二人とも、泥だらけの服を干してるからって下着姿に毛布二人で1枚じゃ風邪引くのも無理ないぞ」
後日、二人は風邪のお土産をもらった。
下着姿で、毛布もきれいなのは一枚しかなかったため、
もともとヒカリが自分が包まっていた毛布にサトシを招きいれたのだが、
どちらかがすでに風邪の菌をもらっていたのかお互いに移しあったらしく、二人仲良くポケモンセンターで安静状態にさせられる羽目になった。
足の治療をしてくれたジョーイさんを口説けばグレッグルに鋭い毒付きをお見舞いされ、
なんとなくいい雰囲気の二人の部屋に入ることもできず、
看病道具を体中に持っているタケシは、周りから珍しいものを見るような目でみれれている。
はいるべきかはいらざるべきか、ある意味で難しい選択を迫られるタケシの受難は、今後も続くかもしれない。
どう見てもタイトルはおまけのためにあるようなもんです本当にありがとうございました